診療案内
不安・恐怖をなおす外来
神経症という言葉は最近あまり使用されなくなりましたが、不安症(不安障害)とは過剰な不安や恐怖によって苦しみ生活に支障をきたすようになった状態のことです。全般性不安障害、広場恐怖症、社会不安障害(社交不安症)、特異的恐怖症(先端恐怖症、閉鎖恐怖症、嘔吐恐怖症)、パニック障害など様々な疾患を含みます。
治療としては、SSRIというkey drugによる薬物療法が基本になりますが、心理カウンセリングや認知行動療法、TFT(思考場療法)、生活習慣や食事内容の見直しなども必要になります。当院では的確な診断はもちろんのことですが、不安・恐怖を克服して社会生活をスムーズに送れるように手助けをしていきたいと考えております。過去のトラウマが発症に関与する場合もあるため、BCT(ボディコネクトセラピー)などのトラウマ処理の手法も併用することがあります。
治療の中で特に重要なのが、不安症のためにひきこもりになったりドロップアウトをしないこと!!です。不安を抱えながらでも外へ向けて行動していく、活躍していく姿勢が非常に重要なことです。不安症のために自宅に引きこもっていると、「今後自分はどうなってしまうのか」といった将来不安が2次的に生まれ、「自分なんかどうせだめだ」といった自己肯定感の低下が続くことになり治療の妨げになるからです。特にパニック障害では「また同じような症状がでたら怖い」といった予期不安で引きこもりになりやすいので注意が必要です。
治療では薬物療法・認知行動療法・TFTなどの手法でこころを守りながら病気に立ち向かっていく患者さんをサポートするというが基本であり、患者さん自身の協力も必要不可欠となります。行動で結果をだすことで自己肯定感が高まり、2次的な不安も低減され薬物療法から脱するという流れが治療の大きな流れになります。
どんな病気?
過剰な不安・恐怖によって苦しみ生活に支障をきたすような疾患の総称で以下のように分類できます。
パニック障害
全般性不安障害:特定できない(将来不安など漠然としたもの)
社会不安障害(対人恐怖症・社交不安症・視線恐怖・会食恐怖):人に対するもの
広場恐怖症:場所(電車、バス、人混み・逃げられない場所)に対するもの
特異的恐怖症:雷・閉所・高所・血・先端・嘔吐・動物・虫
原因
様々な要因が複合して発症に至ります。
脳内の神経伝達物質のセロトニンというホルモンのバランスが乱れて、脳の扁桃体という部分が異常に活性化することが原因といわれております。その他、脳幹の青班核、大脳辺縁系、前頭前皮質の異常などが研究により指摘されています。
ストレス要因(受験・就職・昇進・業務過多・人間関係の問題・死別・転居・身体の病気など)やトラウマ体験(人前で恥をかいた、閉じ込められた、何度も吐いた)が発症の誘因になることがあり心理的な要因も大きいです。
子供の頃の親との死別や、子供の頃の虐待があると、その後パニック障害を起こす確率が高いという研究があり、環境要因も大きいです。
治療
薬物療法が中心になりますが、他の心理療法など組み合わせて寛解を目指します。薬を飲みながら日常生活・仕事にて活躍し自己肯定感を高めることが重要です。行動療法によりあえて不安・恐怖にチャレンジし徐々に不安・恐怖に心身を慣らしていき、最終的に内服薬の減薬または中止をすることが目標になります。特にこの病気では自宅にひきこもりになりがちなのでひきこもりにならないように注意する必要があります。特にパニック障害の場合については予期不安に注意が必要で、決してパニック発作を起こさないように十分量の薬を内服することが重要です。
治療の流れとしては
① 薬物療法にて症状を落ち着かせる。症状が落ち着くまで1~2週間に1回のペースの通院となりますが、落ち着いたら月1回ペースの通院となります。
② TFT(思考場療法)、BCT(ボディコネクトセラピー)なども適宜併用して認知行動療法CBTを並行して行う。特に不安・恐怖へのチャレンジを心理士の協力を得て行っていきます。2~4週に1回のペースで行います。
③ 一定期間症状がほとんどなくなってから、つまり寛解してから徐々に薬を減薬していき治療終了となります。
心理療法を行っても症状が残存し少量の内服薬が残ってしまった場合については、1か月~3か月に1回の通院継続が必要となります。
薬物療法
SSRI(セルトラリン、レクサプロ)を内服して「幸せホルモン」といわれるセロトニンを増やすことが重要です。薬が恐くて飲めないあるいは飲み方を勝手に変える方がおりますが、ここは躊躇しないで指示通りに内服を継続することが重要です。薬をしばらく飲んで症状が改善していくと、恐れずに薬を飲むことが可能になる方が多いです。
セルトラリン(一般名):12.5㎎から開始し、徐々に増量して25㎎~50㎎で使用。副作用としては内服開始数日の吐き気あり、最初の1週間は吐き気止めのメトクロプラミド5㎎を併用する。セロトニン症候群(内服開始24時間以内の錯乱、興奮、発汗、振戦、下痢)があった場合は使用できないが、そのようなケースはほとんどない。
治療開始当初は長時間作用型のベンゾジアゼピン系の薬(ロフラゼプ酸エチル)を併用することありますが、やや依存性があるので必要なくなり次第減薬していきます。頓服として同じベンゾジアゼピン系の中時間作用型(レキソタン・ブロマゼパム・ロラゼパム・アルプラゾラム)の薬を併用して不安発作時のお守りとして持ってもらいます。短時間作用型(エチゾラム)は依存になりやすいので、できる限り使用致しません。
心理療法
認知行動療法CBTにて認知や行動を変容することで不安症状の改善を目指していきます。
特に不安・恐怖に対して階層表をつくりチャレンジしていくことが重要です。月に1~2回のペースで行っていきます。CBTが中心となりますが、最初の心理面接で過去の生育歴や家族関係の影響が大きい場合は、心理カウンセリングが当面継続されることもあります。またトラウマの影響が大きい場合はBCT(ボディコネクトセラピー)を併用することもあります。思考場療法TFT、筋弛緩法なども必要に応じて施行していきます。詳細は当院HPの「心理面接・心理検査」を参照下さい。
生活指導
セロトニンを脳内で増やすことが重要です。朝30分日光浴しながら散歩するなど適度な運動を日常的に行うことが有効です。また食事としては腸活をして腸内細菌の適正化をはかることや、トリプトファン、ビタミンB群を摂取することも重要です。
以下に不安・恐怖性障害の各論をまとめます。
パニック障害
特に原因がなく、また身体的な異常がないにも関わらず、突然、めまい、動悸、呼吸困難、胸痛、発汗、しびれなどの発作が 起きることをパニック障害と言います。強い恐怖感を伴います。通常10分以内にピークに達し、そこから段々と症状が落ち着いて行きます。
パニック障害自体は命に関わる可能性は低いですが、また発作が起きてしまうのではないかという不安(予期不安)に常に悩まされ、そこから日常の生活が大きく制限されていきます。外に出られなくなったり、家の近所しか行動できなくなったり、エレベーターや電車など一度入ったらしばらく逃げられない状況を回避するようになり自宅に引きこもりがちになる方もおります。合併症でうつ病も多いです。
パニック障害と間違えやすい身体的な病気もあり、判断がしにくい病気でもあります。特に夏場の熱中症と間違われやすい傾向にあります。また夏場にやや多い傾向にあり、熱中症との鑑別が重要です。
全般性不安障害(GAD)
日常生活において、不安は誰でも経験することですが、特に理由もなく不安を感じたり、理由があっても必要以上な不安を感じ、その不安がいつまでも続くことが「全般性不安障害(GAD)」です。
性格傾向としては、ヒポコンドリー基調といって生の欲望が強く、完璧であろうとして些細な心身の症状のとらわれる傾向にあります。女性にやや多いです。
慢性的な不安、イライラする、集中できないなどの精神的な症状と、肩こりや慢性頭痛、発汗、頻脈、口渇など様々な自律神経症状があらわれます。うつ病を併発する場合もあります。
社会不安障害(SAD)
会議などで、人前で発表したり、多くの人の前で話をしたり、歌ったり、注目を浴びる状況に置かれた場合、誰しもが不安や緊張を感じます。「社会不安障害(SAD)」は、このような時に普通の人より強く不安や緊張を感じて震えや動悸、発汗などが出たり、いつも出来ることがスムーズに出来なくなる病気です。視線恐怖、赤面恐怖、会食恐怖なども含まれます。
一見さんの他者であれば問題ないが、関わりが深くなると不安・緊張が強くなることがあり深い人間関係を避ける傾向にあります。
多くは10代後半から20代にかけての発症がみられますが、管理職になり人前で話す機会の増える40代で発症することも珍しくありません。男女比はありませんが、日本では生涯のうちに約3~13%の人が社会不安障害を経験するとされています。
人前で恥ずかしい思いをした経験が引き金になることがあります。低い自己評価と他人からの批判を過度に気にする性格傾向にあります。
強い不安や恐怖を感じるため、このような状況を避けるようになり、人によっては引きこもり生活となり社会生活に支障が生じます。特に中高生の不登校の原因になることもあり、そのような場合は適切な治療介入し、登校を促すことが重要となります。
会食恐怖症
社会不安障害のひとつに会食恐怖症という疾患があります。文字通り特定の場面や場所で他人と食事をすることができなくなる病気です。新社会人や大学1年生など会食が増える時期(4月頃)に苦しくなって来院される方が多いです。子育て中の主婦ですとママ友との会食ができないという主訴で来院されます。また、そのような会食が将来増えることを予想して、事前に来院される方も多いです。
病気の特徴としては、「会食ができない」という至極単純なものなのですが、細かい所では個人差が大きいです。例えば、ある人は1対1の会食なら問題ないが、3人以上の複数での食事は無理ですとか(もちろん逆のパターンもあります)、バイキングなど食事の量を自分で調整できる環境なら大丈夫ですが、プレートで各自決まった量の食事をする環境は無理ですなど色々です。外食そのものが全部無理、家族間や親しい友人間なら大丈夫・・・などなど様々です。
また症状も色々です。眩暈・動悸・息苦しさ、失神などパニック発作的な症状がメインの方から、吐き気・気持ち悪さなど身体症状がメインの方まで幅広く様々おられ対処方法もそれぞれ異なります。嘔吐に対して過度に怖がる嘔吐恐怖を合併することもあります。
男女比としては女性にやや多い印象ですが、男性の方も多く来院されます。性格傾向としては優しくて、怖がりで他人に過度に気を使い疲れやすい、自分よりも他人を優先する傾向があります。
病理学的には脳の扁桃体という不安・恐怖などの感情をつかさどる部位の過剰な活性化なのですが、過去の会食時に嘔吐をしてしまい周囲が大騒ぎになった、吐きそうになって苦しいのに我慢して食べた、学校給食で気持ち悪いのに居残りで無理やり食べさせられた、などの体験がトラウマになり発症した方もおられます。もちろん原因ははっきりしない場合もあります。
治療としては、他の不安障害と同様にSSRI(代表的にはセルトラリン)などの脳内のセロトニンを増加させる薬剤をベースに使うことが多いです。ただしSSRIは内服初期に吐き気の副作用がでやすく会食恐怖では使いづらいこともあります。その際は抗精神薬のオランザピン、スルピリドといった食欲が増すような安定剤を追加すると大丈夫なことが多いです。
また薬だけ内服して改善することもあるのですが、基本的には暴露反応妨害法(心理療法の項目参照)といった行動療法の併用が必要です(自分でこなすことも可能ですが、当院では心理士と一緒に行動療法を行うことも可能です)。行動療法とは以下のような階層表を作り、1つ1つ不得意なことを克服していく治療です。 以下に架空のAさんの階層表に例をあげます。
上記のように不安度の低いものから順に細かいシチュエーションの設定(人数、友人かどうか、場所、プレートかバイキングか)を各自オーダーメイドで行い、1個1個克服していきます。ゲームでいうとどんどんレベルアップして強い敵を倒していくイメージでいいかと思います。1つ克服できると自信につながるため、次のステップへの以降は比較的容易なものになります。会食恐怖に罹患する方は受け身な方がほとんどなのですが、治療には積極的に敵を倒すというような強く前向きな心が必要になります。
また行動療法には薬物療法の併用がおすすめです。無理に負荷の強いシチュエーションを設定し、パニック発作など起こしたらその体験がトラウマになりさらに病状が悪化し会食を回避する可能性があるためです。薬を併用して心を守りつつ、前向きに行動を繰り返していくことで、会食恐怖を克服することが可能になります。
広場恐怖症
広場恐怖症とは強い不安を経験した時、今いる場所から容易に逃げる方法がなく助けが得られない状況に対して恐怖や不安を抱く状態のことです。
生活上のストレスなどを契機にある日を境に発症して、その場所や状況を避けるような状態が続きます。発症年齢のピークは20代前半です。
パニック発作を伴う場合はほとんどですが、下痢や嘔吐、めまいなどの身体症状のため人前で恥をかくことを恐れているといった背景があります。トイレがない電車には乗れない人もおります。
よくある例は、混雑した場所(電車、バス、コンサート会場)や逃げ場のない閉鎖的な場所(高速道路や高架橋、川にかかる長い橋、長大なトンネル、地下鉄)などです。京急などで各駅停車は大丈夫だけれど、快速や特急など長時間止まらない列車は乗れない方もおります。容易に外に出られないといって映画館や学校の教室の真ん中に座れないなどの事例もあります。
不安とそれに伴う回避の結果、列車やバスに乗れなくなり、就業範囲が限られ、外出する際に誰か付き添いを求めるようになるさらには家に引きこもることもあります。慢性的になってしまうこともあり、ほかの不安障害やうつ病を合併することがあります。
特異的恐怖症
特定のものや場所などに対する強い恐れなどのことです。狭い所、高い所が極端に苦手な場合は閉所恐怖症、高所恐怖症などといいます。閉所恐怖症ではMRIの撮影ができないこともあります。その他、雷、血液などへの恐怖や吐くことが恐い嘔吐恐怖症なども含まれます。
虫がこわくて外にでれないこともあります。先端恐怖では注射が恐くてできないこともあります。パニック症状を伴うこともあります。