診療案内
女性特有の悩み外来(こころの症状)
更年期障害
更年期とは閉経を迎える前後10年程度(おおよそ45歳~55歳)を指し、更年期障害は、更年期にあたる女性の2~3割の方に症状がみられると言われています。閉経に伴う女性ホルモンの減少が原因で、自律神経系の副交感神経と交感神経という脳のブレーキとアクセルの役割を担う機関に異常があらわれ、さまざまな精神的・身体的変調を引き起こします。
更年期障害では、「身体面」と「精神面」で下記のような症状が現れます。
身体的症状
異常な発汗、のぼせや顔のほてり、頭痛、動悸、息切れなど
精神的症状
イライラ、物忘れ、抑うつ状態、不眠、集中力の低下など
女性ホルモンの減少によって異常をきたした自律神経をもとの正常な状態に戻すために、主に漢方薬と向精神薬を併用して治療を進めていきます。漢方薬では婦人科でもよく処方される加味逍遥散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などを使用することが多いです。向精神薬としては、不安や緊張を和らげるSSRIや抗不安薬を使用することが多いですが、患者様の症状に合わせて必要最小限の使用にとどめております。
また更年期障害が多い年代は職場や家庭において、様々なストレスに晒され心理的な強い葛藤を抱えている方や中年の危機を迎えている方も多いです。そのような方は薬物療法では限界があるため、心理カウンセリングの併用もおすすめしております。
月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)
はじめに
月経前症候群(PMS)は生理の1週間~10日ほど前から、乳房の痛みや下腹部などの身体的な症状、憂うつやいらいらなどの精神的な症状がみられ、日常生活に支障を及ぼしてしまう病気です。生理に伴うホルモンバランスの変化が原因と言われていますが、原因ははっきりとはわかっていません。
ストレスが多くゆとりのない生活はPMSやPMDDの症状を悪化させるといわれております。また現代は少子化で妊娠している期間も短く生涯で経験する月経回数も過去と比較して格段に多くなっており、多くの女性、特に就労している女性がこの疾患に苦しめられております。日本では180万人程度の方が未治療のまま放置されており、企業の生産性の面からも看過できない問題と思われます。
月経前症候群の症状は身体面にみられるもの・精神面にみられるもの、軽度のものから重度のものまで200種類以上あるといわれています。また、症状があらわれるタイミングも、生理2週間前からあらわれる人もいれば、2,3日前に突然症状があらわれる人もおり、患者様一人一人によって、大きく異なります。
PMSの内、精神症状が前面にでるものがあり、それをPMDDといいます。当院は心療内科クリニックであり、治療ターゲットはこのPMDDです。PMDDの方について優先予約枠の設定可能ですので、初診予約の枠が埋まっている場合には、診療相談 のリンクボタンをクリックして予約枠について相談下さい(土曜日・平日夕方の優先予約枠はありませんのでご注意下さい)。
症状
月経前症候群の代表的な症状には以下のようなものがあります。
身体的症状
吐き気、乳房の痛み・張り、下腹部の痛み、頭痛、首や肩のこり、肌荒れ、めまいなど
精神的症状
眠れない、孤独感やむなしさを感じる、イライラする、憂うつな気分、集中力・判断力の低下、不安、緊張、パニック、過食、死にたい、感情を抑えられないなど
またよく誤解されるものとして、月経時に同様の症状が出現することがありますが、これはPMSではなく月経時特有の症状とされ、特に骨盤の痛みがつよいものは月経困難症と呼ばれます。
リスク因子
またリスク因子としては以下のものがあげられます。
・トラウマ:
過去に精神的なトラウマを経験された女性は、そうでない女性に比較して数倍PMDDを発症するといわれおり、特に幼少期のネグレクト、虐待などがリスクとして大きい。
・循環気質:
怒りやすい性格、気分の波が大きい方はPMDDになりやすい。
・ストレス:
仕事でも内容や量を自分で調整できない、つまり裁量権がないとストレスが増大しやすい。専業主婦や自営業であれば自分で業務を調整しやすくストレスは軽減しやすい。
・肥満:
BMI(体重・身長比)が1増加する毎にPMSのリスクは3%上昇するといわれている。体重や脂肪量が増えるとエストロゲン活性が低下しPMS/PMDDの誘因となる。
・生活習慣:
喫煙、飲酒はPMDDを悪化させやすい。
治療
PMS全般の症状についてはエストロゲン/プロゲスチン合剤(経口避妊薬・低用量ピル)などを使用して排卵を抑制することが有効ですが、基本的には婦人科で扱う薬ですので当院で処方は致しません。経口避妊薬はPMDDにも一定程度有効といわれておりますが、効果不十分な場合に当院で以下の様な治療薬を処方し対応致します。またサプリメント・漢方・運動なども有効といわれております。
① SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
PMDDでは脳内のセロトニンが低下するといわれております。このSSRIは脳内のセロトニンを増加させますが、PMDDに対してのSSRIの有効性は確率されており、有効率は60~90%といわれております。個人差はありますが、少量でも飲んですぐに効果が認められるケースもあります。副作用としては、吐き気、眠気、便秘、性欲低下、セロトニン症候群などがありますが、吐き気については内服初期に数日でる程度ですが、当院では吐き気止めを処方します。またセロトニン症候群は内服開始24時間以内の錯乱、興奮、発汗、振戦、下痢などを呈するものですがケースとしては非常にまれです。
投与方法としては、(1)毎日内服する、(2)月経前だけ限定して1週間程度内服する、(3)毎日内服するが月経前だけ増量する3つの方法があります。当院では(1)が30~40%、(2)が50~60%、(3)が10%程度となっております。症状に合わせて服用方法は柔軟に変えていいかなと思います。
また脳内のセロトニンの低下はスナック菓子などの炭水化物の豊富な食事をとるような行動、つまり過食を促すといわれております。糖質がセロトニン分泌を促すので一時的に気分が落ち着くためです。過食自体を治療として使っているのですね。SSRIはこの過食行動に対しても効果的です。
② サプリメント
・カルシウム
PMDDで認められる不安や抑うつなどの精神症状は、カルシウムの低下症状と似ており、PMDDの症例では血中カルシウム濃度が低めという報告があります。魚、海藻、乳製品などの摂取にて少なくとも1日600mg程度のカルシウムの摂取が望ましいです。
・マグネシウム
カルシウムと同様にPMDDと関連があるとされ、1日250~300mg程度の摂取が望ましいとされております。
・鉄
鉄はセロトニンの合成に関連あり、PMDDの症状改善のために必要十分に摂取することが望ましいです。特に女性では月経の影響で鉄欠乏に至りやすいので注意が必要です。
・ビタミンD
カルシウムの吸収を高める意味でも、それ自体にもPMDDに対して効果あるとされております。特に女性は肌の日焼け予防のため日光を浴びることが少ないので、食品やサプリで摂取することも必要と思われます。
・ビタミンB6(ピリドキサミン)
ビタミンB6は、セロトニンやドパミンなどの神経伝達物質の産生に関与し、症状の改善に少なくとも1日80㎎の摂取が必要とされております。
・トリプトファン
トリプトファンはセロトニンの前駆物質であり、良質のタンパク質を積極的に摂取することも必要です。現代女性は美容のためダイエットをしてるい痩がすすみ、タンパク質を含めた栄養素が不足していることが多いので注意が必要です。
・抗酸化物質
酸化ストレスがセロトニンの分解を促すとされており、抗酸化物質の摂取も望ましいです。梅、松、ビタミンC・E・・・様々なものがありますが、ストレスを貯めないことが重要です。
③ 運動
適度な運動は黄体期のエストロゲンやプロゲステロンの分泌を低下させ、PMDDの症状を改善させるといわれております。また運動により脳内のエンドルフィン分泌を高めます。エンドルフィンは痛みに対する感受性を低下させ不安を減じる作用あり精神症状を改善させる効果があります。
周産期メンタルヘルス
はじめに
妊娠・出産・子育てという大きなライフイベントで、母親(父親も)は大きな変化を体験します。子どもの誕生は本当に喜ばしく、幸せな変化でもありますが、身体がこれまでのように機能しなかったり、心が現実に追いつかなかったりという変化もあります。それは、以前の自分を「うしなう(喪う)」体験でもあり、心理的にも大きな負担となります。
妊娠・育児期のメンタルヘルスの不調は、親子ともにその後の人生にも影響するものであることや、妊娠中から産後1年までの母親の死因の第一位が自殺であるというデータもあります。
妊娠期・育児期の心身の不調の要因には、以下の図のように「生物学的要因」「社会文化的要因」「心理的要因」が絡み合っています。目に見えないものは強敵に思えますが、それらを紐解いていくと、付き合い方について考えられるようになります。
特に、妊娠期・育児期については、母親には以下のような変化があります。ホルモンバランスが変わると、生活やこころにも影響があります。同様に、生活や環境が変わればホルモンバランスやこころにも影響があります。このように、この3つの円は相互に影響しあっています。
妊娠期・育児期の変化①
ホルモンバランス
さまざまな不調の根底になるものとして、ホルモンバランスの変化があります。私たちの気持ちの調節に関わるのは「セロトニン」という脳内の神経伝達物質です。セロトニンとは、簡単に言えば「不安感やイライラを抑えて、精神を安定させる」作用がある物質で、セロトニンが不足すると不安になり、多くなると気持ちが落ち着きます。女性ホルモンのエストロゲンは、このセロトニンの分泌や、とり込み口となる受容体を増やすといわれています。なので、女性ホルモンのエストロゲンが減ると、セロトニンも減少します。PMDD(月経前気分不快障害)でこれを経験する人も多いですが、妊娠中から出産後は月経時よりももっと大きな波になります。出産と同時に女性ホルモンのエストロゲンはガクンと下がってしまうために、脳内のセロトニンも足りなくなってしまい、産後は多くのお母さんが一時的に情緒不安定になるのです。また、オキシトシンというホルモンは愛情ホルモンとも呼ばれ、赤ちゃんのことを愛おしく思ったり幸せな気分になることに関係していますが、
そこに、育児のストレスや疲れが加わると情緒不安定に拍車がかかり、これが産後の「マタニティブルー」といわれます。そしてそれが1ヶ月近く改善されずに続くと、「産後うつ病」と診断されます。
妊娠期・育児期の変化②
生活リズムと環境
ホルモンバランスの乱れという私たちの身体の根幹が揺らぐ事態の中でも、赤ちゃんのお世話は待ったなしです。睡眠は不規則になり、食事もゆっくりできない生活が続きがちです。これまでやってきたリフレッシュ法がさまざまな制約によって使えなくなったり、対人関係が変化して自分が自分でなくなるような感覚をもつ方も多くいるかもしれません。
妊娠期・育児期の変化③
こころ
妊娠が判明した時から、母となる心の準備が始まります。期待と恐怖が入り混じる中で、母親としてのアイデンティティを形成していきます。産後は生活スタイルや対人関係が一変し、予測不能な育児が24時間休みなく続きます。こうした中では自己肯定感が揺らいだり、子どもの命を守るために警戒心や不安が高まったりしやすくなります。周囲の理解やサポートを得ながら、「まあ、いっか」と思えるようになると少し楽になりますが、罪悪感や自己否定のループに入ると、ますます悪循環となります。
当院でできること
この時期の母親にとって、母親という役割を「いったんおろして見つめる時間」を作ることはとても大切です。当院では、今の時代を生きるお母さんにとって、物理的・心理的な負担が少なくサポートをできるよう対面とオンライン形式でカウンセリングを行っています。
また周産期のカウンセリングについて希死念慮がある産後うつ病など重症な場合は対応困難です。対応困難なケースは受診をお断りさせて頂いております。授乳中あるいは妊娠中であり西洋薬の使用については必要最小限になるため、クリニックレベルで対応困難なケースが多いことをご了承下さい。
カウンセリングは、「相談する」「頼る」という明確な目的ではなくても、「自分の時間をもつ」ということの延長線で利用してもらえればいいかなと思います。ある患者さんが、心理士とのカウンセリングの時間は、「相手がどう受け取るか気遣わずに話せるからいい」と仰りました。心理士が目の前にいるので、「孤独ではない。けれども私ひとりの時間」という独特さがあると思います。このような時間の中で、お母さんの役割をひとときおろして、整えて、そろそろ家に帰ろうかと思えるよう心理的サポートができたらと思います。授乳しながらでもお茶を飲みながらでも構いません。
薬物治療について
周産期の向精神薬の扱いについてお話ししたいと思います。産前・産後ともに多くの向精神薬は問題なく使用可能です。
当院ではバルプロ酸、炭酸リチウムなどの気分安定薬のみ催奇形性のため使用不可にしております。他の抗うつ薬や抗不安薬については、必要があれば内服、必要がなければ中止または減量としております。もちろん母乳移行の問題などありますが、大きな問題になることはないです。それでも心配であれば母乳&ミルクの混合乳の利用もいいかと思います。
不安症状が強いと早産を誘発するというエビデンスもあり、そのようなケースでは積極的に向精神薬を使用すべきと考えます。