診療案内

強迫性障害について

強迫性障害はやっかいな病気です。強迫観念といって本人が制御しようと思っていても制御できないほどの思考や衝動、イメージが頭の中に浮かびそれがとれずに強い苦痛を感じる病気です。その苦痛を中和するために様々な強迫行為を行うのですが、今度はその行為によって日常生活が送るのが困難になってしまいます。巻き込み症状といって周囲の関係者にも影響を及ぼすこともあります。不安症よりは病態としては重い病気で、どちらかというと妄想性障害や統合失調症といった精神病に近い一面もあります。

当院では薬物治療を基本として、本人の希望や意欲に基づいて行動療法を併用して治療をすすめていきます。ただし症状が重篤な場合は対応困難であるため他の医療機関への転院をすすめております

どんな病気?

強迫観念とその苦痛を緩和させるための強迫行為により病気は成り立っております。自我異質性といって「自分の意志」に反して行為を行ってしまうことがポイントです。要するに「やめたいのにやめられない」ということです。その行為をやりたいというのであればそれは強迫行為でなく「こだわり」といわれ、強迫行為とは異なります。

強迫性障害

また「巻き込み症状」というものがあります。例えば手洗いや確認などがちゃんとやれたかが心配で、大丈夫という保証を家族に繰り返し求める「保証の要求」や、ある儀式的行為(寝る前の鍵の確認など)や自らが作ったルール(帰宅した際の手洗いや入浴など一連の洗浄行為など)を家族にも従うよう強制する「ルールの強要」などの行為のことで、周囲の関係者が疲弊してしまいます。このレベルになると当院での診療は困難になります。
またうつ病を合併することが多いので注意が必要です。

強迫観念:不合理な内容の考えが意に反して頭の中に浮かぶこと。自分の行動に落ち度がなかったかどうか気になる、手が汚れていないか気になる、人にぶつかっていないか気になる、物事の疑問を解かないと気がすまないなど。

強迫行為:強迫行為を打ち消すために行う行動。手洗いが止まらない、おまじないをしないと気が済まない、数をかぞえる、ぶつかっていないか確認する、掃除をしないと気が済まない、戸締りに時間がかかるなど。

下の図のように気にしているものに対する対処行動(強迫行為)を行うと一時的に不安は軽減するものの、長い目でみると過大評価(本人が気にしている特定の特徴へのこだわり)が強化されてしまい病状がますます悪くなる悪循環に入ります。

対処行動(強迫行為)の悪循環

原因

OCDループ仮説(前頭眼窩面‐視床‐尾状核を結ぶ神経回路の循環的な神経発火現象)などがあり、脳の機能異常が原因といわれております。セロトニン・ドパミンなどの脳内神経伝達物質の異常も認められます。

また近親者の死亡などの大きなストレス要因が発症の誘因になることあり、心理的な背景も発症の原因となります。

関連する疾患について

強迫性障害に類似した疾患を総称して強迫スペクトラム障害と呼称され、下記のような疾患がそれに含まれます。病態が似ているのですね。

摂食障害、チック症、心気症、醜形恐怖、自己臭恐怖、妄想性障害、衝動コントロール障害(ギャンブル依存、抜毛症、盗癖、自傷行為、買い物依存)

強迫スペクトラム障害

治療

薬物療法が中心ですが、心理療法を組み合わせて寛解を目指していきます。日常生活・仕事を強迫観念や強迫行為に邪魔されず普通に送れるようにすることが目標となります。またうつ病になりやすいので、うつ病の合併への配慮が必要になります。

薬物療法

SSRI(デプロメール:一般名フルボキサミン)またはTCA(アナフラニール)を必要十分量使用します。SSRIでは副作用としては内服開始数日の吐き気あり、最初の1週間は吐き気止めのメトクロプラミド5㎎を併用します。セロトニン症候群(内服開始24時間以内の錯乱、興奮、発汗、振戦、下痢)があった場合は使用できませんが、そのようなケースは比較的少ないです。またTCAについては便秘、口渇などが主な副作用になり便秘については下剤の併用を行います。

フルボキサミン・アナフラニール

心理療法

認知行動療法にて認知や行動を変容することで症状の改善を目指していきます。心理教育を行いつつ、心理士と一緒に階層表をつくり曝露反応妨害などの行動療法を行って参ります。階層表にのっとり、ひとつひとつの強迫行動を制御・消退させていく地道な作業となります。治療中に疲弊することもありますので、治療を一時中断することもあります。 場合により筋弛緩法やTFTなど組み合わせることもあります。

曝露反応妨害法のしくみ