診療案内
うつ・うつ病についてのまとめ
ここでは、うつ病について当院でどのような考えや態度で診療を行っているかを書いていきたいと思います。有名な教科書や他のブログに書いてあるようなセロトニン・ノルアドレナリンなどの脳内ホルモンの異常などの生物学的な話ではなく、うつの本質を踏まえた上での話をして、そこから自然と導かれる治療・態度にふれていきたいと思います。
うつの本質
まず前提として「うつ」とは何か?ですが、「脳の疲れ」とおおざっぱに考えていいと思います。これは大事なので覚えておいてください。うつは脳の疲れのことです。歩くと足が疲れる、筋トレして腹筋が疲れるなどと全く同じ理屈です。ただし、身体の疲れであれば通常痛みますよね。例えば30㎞歩いた次の日は筋肉痛で足が痛い、腕立て50回すれば上腕が痛くなるなど・・・。脳の場合は、頭痛が起こる場合もあるのですが通常は痛くならずにうつになるのです。その理由は脳は神経細胞の塊なのですがその内部には痛覚神経がないから、痛みとして感じないのです。
痛みの効用
「やった~痛くならないからラッキー」という訳ではないのでご注意を。本来生体は痛くなるから、痛みで動けず治癒反応が生じるのです。足が痛いから動けない、お腹が痛いから動けないなど動けなくなる、動かなくなることで生体ではその間に一生懸命に傷を修復しているのです。有名な例ですが、糖尿病で足が壊疽(いわゆる腐敗した場合)を起こした場合、痛くないので歩いてしまい、より状態は悪化しやすいといわれております。足を骨折して歩いてばかりいたら骨はつながらないですよね。ケガをした時に動物も穴倉でじっとしています。我々も風邪をひいてもじっとして寝てなおしますね。生体は動きを止めている間、そのみえない内部では治癒反応がすすんでいるのです。
逆に脳の疲れでは、痛みがでないので疲れたとわかりづらい特徴があります。それがうつが悪化したり再燃したりする原因と考えられます。ちゃんと疲れて休んでいれば本来うつにはならないあるいはすぐに治るはずだからです。
また一方でうつになるから脳が修復するともいえます。うつにならない脳であれば完全に故障するまで病状がすすむとも考えられます。うつが脳を守っているという発想です。 痛みやうつはもちろん排除したい症状とは思いますが、その利点にもちょっとでいいので注目すると視野が広がると思います。
脳の疲れでみられる症状は?
それでは、脳の「疲れ」であるうつの症状にはどのようなものがあるのでしょうか?もちろん、うつというからには抑うつはあることが多いのですが、それも絶対ある訳ではないので注意が必要です。抑うつがないのにうつとは不思議ですが、うつの本来の定義は脳の疲れなのでそんなこともありうるのです。特にこどものうつでは抑うつの症状がはっきりしない場合が多くイライラといった焦燥や興奮の症状が主体の場合もあります。うつの3大症状としては抑うつ、不安、意欲低下などありますが、その他にも不眠、興味・関心の喪失、自責感、希死念慮、思考抑制・・・様々なものがあり、これがあればうつといえるものはないのが実情です。それがうつをさらに分かりにくくしております。
ここでは分かりにくいうつの症状の中で、私なりにこれは大事と思った症状を3つあげさせて頂きます。
まず一つ目は不眠です。うつでは脳が疲れるので本来なら睡眠は必要になるのですが、うつになってしまうと逆に眠れなくなる場合が多いのです。もともと緊張した性格があり、その緊張のため眠れず脳が休まらずうつになるのか?うつになるから不眠になるのかの因果関係はいまいちわかりにくい場合もありますが、現象としてはうつと不眠は切ってもきれないものなのです。入眠困難、途中覚醒、早朝覚醒とすべての不眠のパターンが認められます。不眠に陥り脳が休まらずうつがさらに悪化、うつが悪化するとさらに眠れなくなるという悪循環に入る特徴があります。
二つ目は朝の気分の不快感です。うつになった方の多くは夕方には調子がよくなるのに朝起きたときに気分が悪いという特徴があります。不眠と関係していて、睡眠により脳がしっかりと休まっていないことが背景にあると思われますが本当の理由については不勉強で分かりません。
また三つ目はイライラと涙です。不思議ですがイライラもうつの症状なのですね。例えばすごく仕事で疲れたときに、イライラして周囲に当たってしまう場合が多いと思いますが、その時のイライラは脳が疲れている証拠なのです。例えば勉強しない子供に仕事で疲れた母親が怒っている場面を想像した場合に、勉強しない子供が悪いと考えることもできますが、実際は母親が軽いうつに陥っていて母親の脳の問題と考えることもできるのです。こどもも勉強に向いていない子が沢山勉強を強いられるとイライラしますね。これも軽いうつです。また普段なら何でもないことでも涙がでることもうつの特徴的な症状です。
産後うつなどで夫やこどもを害してしまう事例がありますがそれはこのイライラ、焦燥の症状が関わっていると思われます。
以上、不眠、朝の気分不快、イライラ・涙についてうつの重要な症状と考えられるので覚えておいて下さいね。
うつ病とは?
今までうつについて述べてまいりましたが、うつ≠うつ病なので注意!が必要です。精神疾患の診断基準が記載されたICDやDSMなどの書籍ではうつとうつ病が同じレベルとして書かれておりますが、実臨床では分けて考える方が診療はうまくいきます。また以下のように脳の疲れと足の疲れを比較すると非常にわかりやすいですので参照下さい。
脳の疲労 | 足の疲労 | 治療期間 |
---|---|---|
プチうつ | 筋肉痛 | 1~2日 |
うつ状態 | 捻挫 | 2週間程度 |
うつ病 | 骨折 | 3か月以上 |
プチうつはネットスラングで医学的には正確な用語ではありませんが、分かりやすくするために入れました。皆様も毎日仕事や勉強で疲れて、次の日に頭が働かないことがあると思います。ゆっくり休めばまたすぐに回復するといったものでそれがプチうつです。
うつ状態は医学的には適応障害としてとらえられる場合が多いです。適応障害とは一時的な心的負荷・ストレスによりうつの症状がでたものです。多いケースとしては会社での過重労働や上司からのパワハラなどを契機に発症する軽症の抑うつのことです。休養と環境調整で1~2週間で回復することが多いです。足の疲労に例えると捻挫に相当すると思います。捻挫もしばらく足を休めれば自然に治りますが、無理をして歩き続けると治りが悪くなりますね。
うつ病については、足に例えた場合骨折または重症の感染症に相当すると考えて下さい。よって骨がつながるまで数か月を要し、その後も完全回復には時間がかかることは想像しやすいと思います。
よってうつ病とはうつの中でも非常に病状がすすんだ状態のことを指しており、休養だけでは治らない場合もあり抗うつ剤などの薬物治療も必要になる場合が多いです。 うつ病とうつ状態の鑑別は難しい場合があります。精神科での診断はレントゲンや採血などの客観的なデータがないので、経験と心眼で骨が折れているかどうか診断することになるからです。私も今までの経験と何度かの面接と薬の反応などみながら、骨折かどうかつまりうつ病になっているかどうか診断します。また骨にヒビが入るだけといった境界辺りの病態もあり難しい場合も多いですね・・・。
下の図を参考にするとイメージがわきやすいです。うつ病まですすむと骨折と同じでなかなか回復しないことがイメージしやすいと思います。
脳が疲れる原因は?つまりうつになる原因は?
もちろん長い時間脳をつかうことが原因になるのは分かりやすいのですが、そう単純ではないのも事実です。
その使い方つまり質にも注意が必要です。勉強のできる子や研究者では何十時間も脳を酷使してもうつにならない場合も多いのです。また好きな絵を何時間も描いている画家や芸術家もそうかもしれないですね。ポイントは各個人の脳の向き、不向きつまりどのような分野に特性があるかが重要だと思います。パソコンいじるのが好きな子は何時間でもできるのですが、身体を動かすのが好きな子が同じことをやるとうつになってしまうのです。
例えば自分も精神科医や内科医は向いていると思います。いくら仕事してもあまり脳は疲れないですね。それが例えば外科手術を朝から晩までやるなどあれば一瞬にしてうつになると思います。要は脳には向き不向きがあるのです。向かないことをやると脳に負担がかかるのですね。脳はパソコンと同じでそのパソコンに合わない使い方や長時間使うことで故障するのがうつの発症といったイメージでいいと思います。
また善悪の概念のうちで「自分が悪い」と思うことや否定的なことを考え続けるのもの脳には負担になります。悪いという言葉にはよく脳は反応しますね。なぜでしょうか?よくわかりませんが、実際そうなのです。よって怒られるということも脳にはよくないですね。
分からないことも脳には負担です。明日の試験が受かるかどうかわからない、仕事が首になるかどうかわからない、将来自分はどうなるかわからないといった状態が一番脳に負担で、試験の結果や人事の結果が逆にでてしまうと脳の負担はへることになります。発達障害の人で対人コミュニケーションが苦手な人が人と沢山接して仕事をしているとうつになります。人の気持ちや空気がわからないのに分かろうと頑張るので脳に負担になるのですね。またよくわからない将来のことをくよくよ考える癖がある方も脳に負担をかけます。
不安、緊張なども脳の負担になります。よって女性に多いパニック発作、広場恐怖症、対人恐怖症、強迫性障害などの病気ではうつは非常に合併しやすいです。よって経済的な問題が大きいことも将来不安が大きくなりうつになりやすいです。
不眠はうつの症状ですが、逆に不眠自体が脳を疲れさせます。
身体の病気のうち、甲状腺疾患や糖尿病なども脳に悪影響を与えるためうつになることが知られています。血糖の変動は血管へのダメージを通して脳にダメージを与えます。月経周期の影響、インフルエンザの影響・・様々なものが脳に影響を与えるのです。またこれは分かりやすいと思いますが、脳梗塞などで脳に直接ダメージが加わると、治癒後にうつになることがあります。これは脳の疲れをもたらしているというよりかは、脳へのダメージの結果、ストレスに対する脳の耐久力(我々はレジリエンスともいいますが)が落ちてしまい疲れやすい体質をもたらしているとも解釈できます。
また食生活や運動習慣なども脳の耐久力維持には欠かせないものなので注意が必要です。高齢になり脳が老化しても脳は疲れやすいですね。認知症の方はうつは容易に合併します。
性格的には必要以上に頑張る人や完璧主義な人は脳が疲れやすいのは自明ですね。また~すべき、こうあるべきと~べき思考が強い方も脳は疲れやすいです。
最後に元々うつになりやすい脳の方もいらっしゃいます。足に例えると骨折しやすい骨をもった方に相当すると思います。古典的に内因性うつ病といわれる病態のことで、特に大きなきっかけがなくても周期的にうつ病にまで陥る性質があるうつのことです。脳自体の遺伝的なものが原因の場合が多いですが、うつ病を繰り返す中でそのような脳になってしまう方もいるようです。
以上脳が疲れる原因をまとめると・・・
脳が疲れる原因
-
脳への負荷が大きいから
- 長時間の使用
- 向かないことをする
- 自分が悪い・駄目だと考える
- 分からないことを考える
- 不安・緊張(経済的問題含む)
- 不眠
- 頑張る性格・完璧主義
-
脳自体の耐久力低下があるから
- 身体の病気中または後遺症
- 食生活
- 運動習慣
- 老化現象
-
脳の疲れというかは脳自体の遺伝的な問題
- 内因性うつ病
うつ病の治療はどうしたらいいか?
ⅣとⅤをもう一度読んで頂くと自然に答えは導かれると思いますがまとめますね。
「脳の疲労と回復」の図をみて頂いて、考えて欲しいのですが、うつ病の治療で最も大事なのは仕事や人間関係におけるストレス要因を減らすことです。それと回復するための休養が重要です。そんなこと当たり前といえば当たり前ですが、これが意外と難しいのですね。
ストレス要因として、過重労働、苦手な内容の仕事、苦手な人間関係などありますが生きていく上ではなかなか避けられないですよね。仕事辞めたいと思っても経済的な事情で辞められないといった方が大多数だと思いますし、家族の中で折り合いの悪い人がいてもなかなか別居して距離をとることも難しいですね。
また休養が大事といいましても、うつ病になりやすい人は元々、自分のことを悪い人間である駄目な人間と考えたり、不安・緊張が強い方であったり、頑張る性格であったり、分からないことをぐちゃぐちゃ考えたり、眠れなかったりと脳に負荷をかけることが得意で休むことは苦手な人たちなのです。
さらに食生活が乱れていたり、糖尿病などの病気持ちであったり、年をとっていたりでベースとなる脳自体の回復力、耐久力も失っている場合もあり、大変です・・(汗。
骨折とかであれば足を固定してしっかり休んで云々すれば通常は治ると思います。また歩かなければ足へのストレス要因はないと考えられることや、患者さんの側も治ると信じていることもいいですね。うつ病の場合は、休んで!といっても頭で色々と考えてしまったら休んでいない状態になるのです。また不眠も合併するため症状自体が休養の邪魔になるのです。
こんな感じで途方に暮れそうになりますが、逆にだからこそ粘り強く治療することにやりがいを感じたりもしています。以下に治療のポイントをまとめますね。普段こんなこと考えて治療していますので参考にして下さい。
治療のポイント
①正確な診断:うつ病であると正確に診断することが大事です。これが結構難しいです。というのもうつの症状は多彩であり、特に高齢者や若年者では抑うつがはっきりしない場合もあるからです。イライラや身体の症状が主体のものがありますので注意が必要です。うつ状態の段階なのかうつ病までいっているのかが抗うつ剤使用開始の鍵になることもあるので、その鑑別は重要です。
②不眠の解消:うつ病のほとんどに不眠が合併しますが、眠剤を処方しても頑固な不眠が継続する場合も多々認められます。ただ闇雲に眠剤を処方しても副作用もあったりするのでそれだけに頼るのは難しく、睡眠時無呼吸などの病気で不眠の場合もあります。また夜勤がある方や思春期のフクロウ症候群のように睡眠相が安定しない方、スマホ依存でブルーライトの影響で不眠の方などもおられます。うつ病治療の一丁目一番地が不眠の解消なのですが、ここでつまずくことも多いですね。
③背景にある精神疾患の把握と治療:様々な疾患でうつ病を合併することが多いのでそれらの疾患の拾い上げが大事ですね。特にパニック症、社交不安症などの不安障害ではそもそも常に脳が疲れている状態になりやすくちょっとしたことでうつ状態またはうつ病になりやすいですね。また最近増えている発達障害の方も不得意なことが生きていて多いため、脳が本当に疲れやすいです。またトラウマによるPTSDなども然りで常に緊張状態にあるためうつ病になりやすいです。その他、統合失調症、認知症なども元々の脳の耐久力の低下からうつ病になりやすいです。
④背景にある内科疾患の把握と治療:甲状腺疾患、糖尿病、癌など様々な身体疾患にも注意を払うことが大事です。どれも脳に負担をかけます。特に腰痛などの痛みがあるとそれだけで容易に脳が疲れますので痛みのコントロールも治療には大事になります。うつの症状として結果的に痛みがでることもあり、原因と結果で混乱することも多々あります。内科疾患についてはまずその治療が優先になります。甲状腺機能低下症でうつ病になっている場合に、いくら抗うつ剤を飲んでも回復しないですね。甲状腺の治療をしないと治らないうつです。
⑤性格要因の把握:頑張る、考えすぎる、完璧主義などの性格がうつの治療の妨げになります。そもそも頑張るなどは社会的にも評価される特質で、適応的に本人も身に着けた性格であることもありなかなか修正できないですね。認知行動療法などありますがそう簡単に考え方は変わりませんよね・・・。最近は変わることを促すよりは、今まで生きてきた自分なりの性格というか生き方を認めるというかが大事かなと思います。「今無事に生きているかな、いいんでは・・・」という感じです。自分を変えようというのはある意味ポジティブにも思えますが、「今までの自分は駄目だから変えないといけない」ということなので、今までの自分の否定にもつながる考えだと思います。人間否定されると余計に意固地になったりしますよね。「絶対変わってやるものか!」とか笑。頑張って完璧主義でうつを繰り返すといった現実を認めるというか「まあいいかな」「そんな自分でも何とか生きてきたんだよ」とすることでやっと変化の入口に立てるような気もします。私も何度も人を変えようとして失敗してきました。そもそも自分も昔からたいして変わっていないのでそんなこと人様に強要できないですよ・・・。
⑥環境調整:これは色々頑張ります。職場環境が原因であれば異動をすすめる診断書を書いたり、休職の診断書を書いたり致します。難しいのは中小企業などで休職、復職などの制度がない会社ですね。休職=解雇みたいな所もあり、環境調整が不可能な場合もあります。また同居する家族関係の問題が原因の場合も大変です。別居できる経済力などあればいいのですがそうも言っていられない人がほとんどです。距離のとり方、人間のとらえ方などアドバイスしますがなかなか難しい問題です。
⑦経済問題へのアプローチ:これも頑張ります。自立支援の診断書はもちろんですが必要な場合は障害手帳や年金の作成も致します。手帳を作成すると様々な経済的なメリットがあります。経済的な不安が軽減するだけで脳の負担は軽減されるので治療はうまくいきますね。以前スウェーデンかどこかの研究で抗うつ剤と10万円をうつ病患者さんに渡してどちらが効いたかの試験があったのですが、10万円の方が治療効果が高かったといったデータがあります。また障害者枠での就職なども就労移行支援事業所などを通じて積極的に紹介していきたいです。
⑧休養の仕方の共有:うつになった場合は、うつになりきることで脳は勝手に休まるので回復は早いですね。力を抜いて水に体を浮かべるイメージです。⑤でもいいましたがうつ病になる人は休むのが非常に不得手です。休職しても家で様々なこと(過去の後悔、将来不安等々)をずっと考え続けており脳を酷使している方が多いですね。すべき思考も多いですね。ああすべき、こうすべきと疲れる考え方がデフォルトになっている人もいます。とにかく頭を空にするというかぼ~とできることが治療においては非常に重要です。以前読んだ書籍にぼ~とするためのアドバイスがありましたので紹介しますね。一つは2歳~3歳の時に住んでいた場所の風景を眺める、二つ目は小学生の頃に夢中になった遊びをするとか。何かに夢中になるというのはある意味脳の動きが止まっている状態に近いのです。2~3歳の頃の風景というのは人間が一番リラックスできた時代の記憶を誘発するというか、同調するためにいいのでしょうね。
ここで私の意見を述べますが、掃除がいいと思います。掃除のメリットを述べるときりがありませんが、まず部屋が綺麗になるので気持ちいいです、それから掃除中は基本的に身体を動かすので頭の動きは止まっている場合が多いです。掃除をすると無駄なもの、いらないものが沢山みつかると思います。それを捨てるというか断捨離することでなぜか心もすっきりする場合が多いです。部屋のごちゃごちゃを空っぽにすることは、頭の中を空っぽにすることに同期するというか同調するのです。まず形から入るという意味で掃除は脳の休養の中では重要なポジションを占めると思います。
⑨断酒:アルコールとうつは深い関係があるのでここで詳しく述べますね。アルコールのメリットとしては脳がリラックスできることです。抗不安作用があるので普段不安や緊張が強い人はそれが緩和するし、すべき思考の人は頭がぼんやりするので脳の負荷が減ります。逆にデメリットは何でしょうか?アルコール自体が脳の神経細胞にダメージを与えるので脳の耐久力を下げる作用があるのです。また頭がぼんやりがいきすぎて思考抑制を中心としたうつの症状がでることもあります。あとこれが一番問題なのですが、睡眠に対する悪影響です。よく酒で眠れるといいうますが大きな間違い!!!です。アルコールには入眠作用はありますが、睡眠の質を悪化させ途中覚醒を誘発するのです。皆様も飲み会の日にすぐは寝れたけど3時頃にトイレに起きたら目がさえてしまって眠れないなどの経験があるかもしれないです。まとめるとアルコールのうつへの影響としてはデメリット>メリットになるのでうつの改善には断酒が望ましいです。少なくとも節酒ですね。
⑩薬物治療、ECT、磁気療法:脳を休ませるための薬と脳内ホルモンのバランスを整える薬があります。両方の性質をもつものもあります。脳を休ませる薬の代表は睡眠薬を中心としたベンゾジアゼピン系の薬です。依存を起こしやすい薬で副作用もそれなりにあるので使用には注意が必要ですが、便利な薬です。頭がぼんやりしてよく休めます。不安もとれます。長く使っているとぼ~とした感じが続いてしまうので、どこかでは減薬が必要な種類の薬です。特にうつの回復期に飲んでいるとうつの症状なのか薬の副作用なのか紛らわしくなってきます。
また脳内ホルモンであるセロトニン・ノルアドレナリンなどのホルモンを整える代表はSSRI、SNRIがあります。また少し古い薬では三環系または四環系の抗うつ薬などがあります。使用するのはいいですが、中止にもっていくのが難しいものが多いですね。例えばパキシルなどは切れ味はいいですがなかなか中止するのは難しく使用開始も躊躇しがちになります。薬で注意が必要なのはうつがよくなってもしばらくは内服をやめないことです。減薬をゆっくりすることがポイントです。飛行機の着陸に似ていて慎重さが必要です。また不整脈や肥満などの副作用もあるため慎重な使用も大事です。
薬に反応しないうつについてはECTや磁気療法などの手段も最近はありますので必要な場合は適切な医療機関(病院)に紹介いたします。
その他のポイント
最後にうつ病治療に関連した小項目について触れていきます。
過去を悔やむ方について
うつ病では過去の後悔が多くの方で認められます。心理的にも過去に目を向けることに親和性があるようで、post festumともいわれております。過去の後悔についてうつ病の特異的な症状とまではいえませんが・・・。
過去は変わらないといわれておりますが、過去に対する評価は変わります。歴史的事実とその後の評価といった感じです。日本の歴史では日露戦争に勝ったことは当時はもちろんよかったこととされていますが、その勝利が後の太平洋戦争の敗北につながったともされておりトータルで考えると日露戦争での勝利の評価は五分五分またはマイナスですねという感じのことです。勝ちは負けの始まりともいえます。負けてもそこから何かが得られれば勝ちかもしれないです。負けによるメリットというか効用がみえてくれば、つまり「勝ち負けの概念を昇華」できれば脳には優しいかなと思います。人生万事塞翁はいいことわざで、物事の幸不幸は人間にはわからないということを端的に表しております。
今の状態がまずまずいい状態であると過去の評価は改善します。今の状態が逆に悪いと過去の評価は下がるという特徴があります。私の診療の目標は過去への評価について本人の思いを無理に変えるということは目標にせず(というか無理には変えられないです)、現実的な生活や対応の仕方、人間関係などの改善、視野の広がりなどを通して自然に過去の評価があがるのを待つ戦略です。逆にそれ位しか戦略が思いつかないですね。
老年期のうつについて
老年期は特に回復力が弱いことがあげられます。足の骨折の治療と同じで若い人より骨が付きにくいので治療にはより時間と根気がいります。そもそも治らない場合もありますね。脳も老化するので回復力がない場合が多いです。またちょっとした負荷(ストレス)で容易に脳に疲れがたまり壊れやすいです。老年期の認知機能の低下はある意味で脳を守っている場合あり、物事を深く考えないことで脳に対して保護的であるとも考えられます。うつがはっきりせず頭痛、腰痛、胸痛、動悸、吐き気などの身体症状が主体のうつや認知症と鑑別の難しいうつもあり診断にも苦慮します。治療者としては非常に難しい部類のうつですね。やりがいはありますが、治療がうまくいかないケースも多いです。
老化現象のため治療に患者本人の自然治癒力を利用しにくいのが一番大きいですね。私の現在の診療の課題は老年期のうつ病と難治性うつ病です。例えるともともと足腰の弱った高齢者が骨折してその後ちゃんと歩けるようになることを目指す、何度も足の骨を骨折して複雑骨折しているのにどうしても歩いてしまい骨折が治らない方を何とかしていくイメージです。難しいですね・・・・
うつの利点
うつにも利点があるのでも知っておいたほうがいいです。うつになると強制的に頭が働かない状態になるのです。パソコンの強制シャットダウンに近いですね。脳が回復を目指して動作を止めるイメージでいいと思います。
うつに感謝しなさいとはいいませんが、うつになることで強制的に脳が休まるのも事実です。そのおかげで不可逆的な脳の機能低下である認知症を防いでいる部分があると推測できます。スウェーデンの研究(Sindi,S et al(2017)Midlife work-related stress increases dementia risk in later life: The CAIDE 30-year study. J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci,72(6),1044-1053)では仕事上のストレスと認知症の発症リスクについて述べられており、50代の時に仕事でストレスを感じていた人は感じていない人に比べて認知症を発症するリスクは1.53倍となっております。 うつで脳がちゃんと休まれば認知症の予防になるかもしれないと推測は可能です(これは根拠がないです)。
「死にたい・自分は駄目だ」について
希死念慮について。死とは究極の休養です(あるいはそのように勘違いされています)。本当に死後の世界があって休養になるかどうかはわかりませんが、脳はそう判断してしまいます。死にたくなる、この世から消えたくなるのは「休みたい」というメッセージを誤ってとらえた現象と思います。パソコンでいうとうまくシャットダウンできないのでぶん投げて壊してしまうイメージです。
自責感については背景はよくわからない場合が多いですが、うつ病で多いです。自責感が強くうつになるのか、うつが強いから自責感が強くなるのか不明ですが。自分を責めると脳にとっては非常に負担になります。善悪の概念で悪というのは非常に脳にとっても悪いのです。ですから自分が悪いという思考回路はうつの治療の妨げになります。本当は脳の使い方が悪いだけなのに脳自体が悪いと勘違いしてしまうのです。