お知らせ

休職に関する経済的問題への対応

 うつ状態により仕事の継続が困難になり休職が必要な方が多くいらっしゃいます。休職に際して皆様が気にされるのは経済的な問題です。診察の中でも質問されることが多いため、ここで簡単に経済的な問題への対応方法についてまとめます(当院のHPの「不適応・ストレス」の中でも同様の内容のものがございます)。

① 傷病手当

 休職された方には社会保険より「傷病手当」の支給がございます。給与の2/3が給付されます。多くの会社では毎月の請求となることが多いですが、一部の会社ではまとめて請求するところもあります。休職後に、会社の総務部に申請して頂ければ、「傷病手当金申請書」を渡されます(または自宅に送付されます)。その中にクリニックで記入が必要な「診断書(下の図参照)」がありますのでそれをクリニックへ持参ください。また診断書は診察日までの期間でしか作成できません。例えば4月25日が診察日であれば4月25日までの期間でしか作成できません。毎月の申請と考えると月初に前月分の診断書を作成することが多いです。また診断書の作成には通院が必須ですのできちんと通院して下さい。月2~4回の通院となることが多いです。支給開始日から最大1年6か月まで支給されます。

 また同病名で複数回申請することは基本的にはできませんのでご注意下さい。

 また休職後に退職された場合も、支給日から1年6か月までは支給されます。休職せずに退職されると傷病手当は支給されません。退職前に休職期間(4日以上)があり、傷病手当の支給を受け始めることが条件となります。退職後は各企業ではなく、保険組合に直接請求することになります。また退職後の傷病手当支給については、継続して社会保険に1年以上加入されていた方に限ります。転職された場合には、前の会社と今の会社通算で1年以上加入された方に限ります(切れ目がないことが重要です)。

 診断書の作成費用は1100円ですが、保険適応になりますので自費としてはその3割の支払いになります。即日作成致します

② 失業手当

 退職後については雇用保険による失業手当の支給がございます。傷病手当の期間が切れた後に給付されます。精神障害者手帳を所持しているか管轄のハローワークに「主治医意見書(下の図参照)」を提出することで「就職困難者」とされ、失業手当の受給期間が早まり受給期間が延長されます(個々のケースで異なる場合もあるため詳細は管轄のハローワークに相談する方がいいと思われます)。

 意見書の作成費用は当院では自費で3300円です。即日作成致します

③ 自立支援制度

 保険診療は通常自己負担が3割ですが、心療内科・精神科に通院される場合に自己負担が1割になる制度があります(また年収によっては支払い上限額も決まっております)。心療内科に関連した薬にも1割負担が適用されますので比較的通院が長引きそうな方は利用された方がいいと思います。

 診断書について当院で作成し、住民票の住所地の自治体へ提出することが必要になります。診断書の作成費用は自費で3300円となります。作成には1週間必要です

生活習慣と脳の問題

 2月5日の記事「心身の養生」の追加です。

 心療内科・精神科というと心や人生における悩みが症状の原因ではないかと考えがちですが、実はその多くに生活習慣の問題が関与しております。

 つまり心の問題というよりは脳・神経細胞の劣化が精神疾患の悪化に関与しているということです。

 わかりやすい例でいうとアルツハイマー型認知症の方などで人格が以前より比べものにならない位変わった時、本人の性格が悪くなったと考えるよりは脳の劣化が原因と考えますね。アルコールなども脳にダイレクトにダメージを与え、長期間のみ続けると脳とくに前頭葉が劣化し人格が変わったりします。また数日間全く食べないで頭が働かずうつ状態になったときも栄養が原因と考えます。このように脳自体の劣化や機能低下が人格、性格、精神症状に大きな影響を及ぼしているのです。精神科の最初の初診では器質性疾患の除外が一番重要といわれております。つまり内科的な病気、アルコールの影響、ホルモンの影響など脳に影響を与える身体的な問題の検討、除外診断をすることが診断の第一歩なのです。

 疲弊した脳で色んな悩みを抱えているとさらに脳が疲弊してうつ状態が悪化⇒思考が働かない⇒解決できないから焦る⇒さらに一生懸命に考えようとする⇒脳がさらに疲弊してうつ状態が悪化する・・・と悪循環のスパイラルに入ります。

 認知行動療法などで否定的な認知を変えていこうというものもありますが、考える本体である脳が上手く働いていないと治療効果も十分発揮しないことが多いです。

 最近当院に通院している方に生活リズム表をつけて頂くことが多いのですが、生活リズムが昼夜逆転でめちゃくちゃであり食事についてもコンビニ弁当やカップラーメン、お菓子ばかり食べる、深夜食が多いとかの方が多いです。あと噛む回数が少ないのも特徴です。運動習慣もなく日の光も浴びないなども加わり、ベースとして薬物療法などの効果が出にくくなっております。もちろん認知行動療法などの心理療法も効果は薄いと思われます。

 以下の患者さん自身でやって頂きたい心身の養生のポイントを改変してまとめました。

 前回のものに追加したものについて太字にしております。

 食事の油についてはいろいろな議論はありますが、リノール酸からでるヒドロキシノネナールという物質が脳を萎縮させる作用があるといわれており、どちらかというと避けた方がいいものです。

 日光浴については脳内のセロトニンを増加させる作用があります。SSRIなどの薬の効果を上げる可能性があります。腸活についても然りです。

 対人関係の問題で悩み孤立傾向になる方も多いですが、極端な孤独についてはオキシトシンというホルモンの分泌が低下するので避けた方が望ましいと思われます。

 また統合失調症の家族の対応でよくいわれることですが、HEE(high expressed emotion)といって、怒ったり泣いたりわめいたり激しく感情的に患者さん対応すると予後が不良になるといわれております。確かに感情的に激しい人が近くにいると落ち着かなくなりますね。

清潔な習慣

□ 睡眠部屋の掃除をすること(ハウスダストなどを除去)

□ 毎日お風呂に入ること

良質の睡眠

□ 入眠時間と起床時間を一定にすること(入眠薬を同じ時間に内服)

□ 昼寝・夕寝は厳禁(昼寝は15分以下なら可)

□ 入眠1時間前にはスマホを使用中止すること

□ 土日祝日でもリズムを変えないこと(多くても1時間程度の変化にとどめること、まとめ寝は厳禁)

バランスのよい食事・咀嚼

□ 絶対正しいという食事内容はないため、様々な食材を万遍なく食べること

□ 最低30回噛んで飲み込むこと(意外と難しい)

□ BMI>25 空腹になるまで食べない(時間で食べない)、空腹時間を長めにとり空腹に慣れること

□ BMI<18 空腹にならなくても時間で食べてBMI20以上目指す

□ 入眠2時間前から水以外は口に入れないこと

□ 炭水化物でもお菓子類(砂糖)は控え目にすること

□ 油についてω3(アマニ油、シソ油、魚油)は多めにして、ω6(サラダ油、マヨネーズなど)やマーガリンは控えめにすること

□ 腸活をすること(腸内細菌製剤・発酵食品・食物線維・オリゴ糖)

適度な運動

□ ウォーキング1日5000歩(スマホで計測)

□ 午前中に30分以上の日光浴

□ 適度なストレッチ:ヨガ(YoutubeのB-life)、ラジオ体操

嗜好品の制限

□ 禁煙

□ 節酒(多くても1日アルコール1単位以下×週4日以下)

□ カフェイン、エナジードリンクをとりすぎないこと

・人間関係

□ 極端な孤独や感情的な反応をする人は避ける



職場の人間関係トラブル解決法

 4月が近づき、職場を中心に人事異動や組織の再編などが多くなる時期と思います。学校でもクラス替えや席替えが行われます。異動で問題となるのは、仕事内容が変わることはもちろんですが人間関係の大きな変化です。苦手な上司や同僚・部下と席が近くなることで心身の調子を崩す方も多いかと思います。あるいは違う組織が合併して上司や同僚・部下が変わるなどもあると思います。今後緊急事態宣言が終了する公算が高く、出社が増えることで人と人が顔を合わせることも場合によっては状況を悪化させる場合があります。

 隣の人の声が大きい、ぶつぶつ独り言を言っている、人の悪口ばかり言っている、机をがたがた叩いてうるさい、体臭・ヤニ臭・口臭がひどいなどで苦しめられている方が多いです。

 フリーアドレスであったり席替えが容易にできればいいのですがそう簡単にいかないケースも多いです。

 当院のHPのセルフケアにも書きましたが、対人関係問題の解決の基本は当人と距離をとることです。苦手な人がいても距離をとれれば概ね問題はなくなることが多いです。ただし職場で隣の席になった場合や部署が同じになった場合、その距離が絶対的に縮まるのでいかんともし難いのですね。

 人間関係のトラブルの解決で「話し合い」というものがよく使われ、「なにか問題があれば話せばわかる」といったこともよく行われますが、話しても分かり合えない、通じ合えないことが多いのが現実であり、実際言いにくいことも多いです。また話し合うことで場合によって余計話がこじれることもあり注意が必要です。

 勤め人である限りどうにもならないのですが、できる対処方法としては以下のようなものがあります。もちろん会社を辞めてしまえば一番楽なのですが、経済的な問題からそれが困難な人がほとんどです。もちろん社内でちゃんとした話し合いができて解決できればそれに越したことはありません。ただしスメハラについては本人に伝えるまたは距離をとる以外に方法はないと思います。

  • 自身の体調管理をしっかりする

 睡眠を中心として自身の心身の調子を安定させることが重要です。他者の言動に対してイライラする、気になる場合に、往々にしてあるのが自身の心身の調子が悪いことが原因である。無理な生活をすることで脳が疲弊し、軽いうつ状態になることでちょっとしたことでイライラしてしまいます。お母さんが家事で疲れていて、イライラして子供に当たるケースなどが例としてあげられます。自身の体調がいい場合、細かい他者の言動は流せる場合が多いです。女性の場合は月経前の気分の不快を何とかコントロールすることも大事です。SSRIなどの薬が非常に有効なので試してみる価値はあると思います。ただし食事・運動・睡眠といった基本的な生活スタイルの確立が一番重要になります。

  • 薬を飲んで状況に慣れる

 抗不安薬を中心とした薬は有効です。薬を飲むことで今までムカついていたことでも、「あっそう」「そんなこともあるさ、ハハハ」と適当に流せるようになります。不思議なのですが、実際気にならなくなることが多いです。①と同じで脳の機能が安定化することで不安・イライラといった感情が減弱するのですね。否定的な認知を変えることで感情を制御しようという認知行動療法と似た効果が得られます。薬の場合は感情に直接影響します。感情が変わることで、「隣人が悪い」「どうにもならない」といった否定的な認知が、「隣人も大変なのだな」「まあなんとかなるさ」といった肯定的な認知に変わり、認知が変わることでさらに感情もより安定するといった流れも生まれます。

  • 心身の不調を訴えて産業医への面談を申し出る

 事業所単位で50人以上の職員がいた場合は通常産業医の先生がおられます。多くは非常勤の産業医の先生で月1回程度会社を訪問していると思います。産業医の業務に「職場環境の改善に努める」といったものがあります。ちゃんと産業医の役割を果たして頂けるのであれば面談が可能であり、面談にて「職場内の人間関係の問題で心身の不調をきたしている」と判断された場合、産業医は事業所の責任者に改善勧告をだすことができます。ただし産業医の多くは内科の先生がやっておりメンタルヘルスは詳しくはない場合があったり、産業医自身も事業所に雇われている人間なので強くは言えない場合があったりでうまくはいかないケースも多いです。

  • うつ状態になってしまったら心療内科通院して診断書をだしてもらう

 あくまで職場の人間関係が原因で脳が疲弊してうつ状態になった場合ですが、心療内科に通院して「職場環境調整が必要」といった診断書をもらい対応することも可能です。会社には職員の心身の健康に配慮する義務(安全配慮義務)が法律で定められており、基本的に何等かの診断書がでた場合は対処が必要になります。ただし診断書に職場環境調整の必要性が記載されていてもどう対処するか最終判断するのは会社です。診断書があったからといって必ずしも会社が必要十分な対応するとは限りません。またうつ状態になるまで我慢するも辛いですね・・・。

  • 隣人と自分のこころを観察して楽しむ

 やや高度なやり方ですが迷惑な隣人の特徴を客観的に分析する第3の目をつくることで感情的な反応をおさえることも可能です。隣人や自身のおかれた状況を、空間的な客観視も大事ですが、時間的にもより長期の視点でとらえることが大事です。また感情的に反応する自分のこころの動きを観察することも感情の安定に役立ちます。人は辛い状況に陥ったときに解離という状態に陥ることがありますが、意識的に自我の働きを弱めてそれに近い状態をつくりだすのです。今回は具体的な内容の記載は差し控えたいと思います。

  • 会社の上層部へ職場の構造についてアドバイスをする

 長時間一緒に過ごす、しかも狭い部屋で席を固定するという環境設定に無理があるのです。構造派による家族療法というのがあって、家族のいる部屋をチェンジする、仕切りをつくる、入れ替えるだけで家族間の関係性が改善するケースも多々あります。誰と誰がうまが合わないとかいう以前に部屋の構造や共有する時間の長さ、対面の席での視線の位置など自体に問題があると考えてもいいかもしれません。当クリニックもスタッフは10人以下と小規模なため人間関係のトラブルは比較的起こりやすい環境にありますが、勤務曜日・時間などシャッフルすることで共有時間をコントロールしており無用なトラブルを避けるように心掛けております。

 以上いくつか対処方法を述べさせて頂きました。4月は様々な変化があり適応することが大変かもしれませんが、上記のことを参考に頑張ってみて下さい。