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自分のニーズに気づき、自己理解を深めよう!

心理士沓名によるコラムです。

マズローの欲求段階説をヒントに、「自分が何を必要としているのか?」に耳を傾けることで自己理解を深め、そのニーズを満たす行動を選択していくことは、人生の満足度、充実感を高めていきます。また、家族や職場の人等、身近な相手の様子がおかしいと感じた時、どのニーズが満たされていたかを意識することも、相手の理解を深める手掛かりにもなります。

欲求段階説は、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した心理学理論で、人間の欲求を5つの階層に分類したものです。この理論では、下の階層の欲求が満たされることで、次の段階の欲求が顕在化し、人間の成長や発展につながるとされています。

生理的欲求、安全欲求、所属と愛情欲求、自尊欲求は「欠乏欲求」に分類されます。欠乏欲求は「足りないものを補って満たしたい」と感じる欲求です。欠乏欲求が満たされないと、不満感、苦しみ、不足感を感じますが、 満たされると、それ以上は湧き起らないという性質があります。例えば、お腹が減っていて、ご飯を食べ、満腹になるとそれ以上食べたいとは思わないのが典型的です。これに対して自己実現欲求は「満足した上でさらに上を目指したい」と感じる欲求です。「成長欲求」に分類される5段階目の自己実現欲求は、1~4段階目をすべて満たした状態でないと満たされない欲求といわれています。そのため、「欠乏欲求」の下の階層から順番に充たしていくことが大切です。

それぞれの欲求を詳しくみていきましょう!

①生理的欲求

生命を維持するために必要な食事や睡眠、排泄などの欲求。

食事をとらないと低血糖を招き、アドレナリンが出て一種の興奮状態になることで、集中できない・落ち着かない状態が表れることもあります。現代人は、カロリーをとっていても必要な栄養素が不足しているケースも見られ、バランスの良い食事を意識することが重要です。

睡眠も重要で、質の良い睡眠は、心が安定し、自己コントロール力を高めるセロトニンが分泌されます。

規則正しい睡眠と食事を心がけるだけで、落ち着いた行動がとれるようになるという報告もあります。

②安全の欲求

安全や安心を求める欲求。恐怖、危険、苦痛からの回避。

虐待、いじめ等安心できる環境ではない場合、安心の欲求が満たされていない状況と判断され、環境調整が必要になります。何によって自分の安全が脅かされているかに気づいていないこともあり、これを明確にすることが第一歩になります。

人間関係だけでなく、暑さ・寒さといった気候、感覚過敏、アレルギーといった要因も身体の安全を脅かすものと考えられます。また、「犬にかまれたことがあるから、犬は危険」等、個人的経験から安全ではないと判断されたものも含まれます。 トラウマ体験は安全・安心を脅かされた体験とも言え、安全・安心の感覚を取り戻すことが治療の重要な要素となります。

③所属と愛情の欲求(社会的欲求)

家族や仲間とのつながりや所属感を求める欲求。家庭や学校、職場等の身近な人との信頼関係が築かれることで、この欲求が満たされていきます。現代では、SNSを介したつながりも含まれるかもしれません。

生理的欲求、安全欲求が満たされると、私たちは人間関係に目が行くようになります。

人間は社会的動物と言われています。進化の歴史から見ても一人で生きていく動物ではなく、たくさんの人と協力することで生きてきた経緯があり、「何かに属したい」「他者から愛情を得たい」と感じるのは自然な感情です。


④自尊欲求(承認欲求)

他者から承認などを得て、「自分は大切な存在だと感じたい」「ありのままの自分で大丈夫と感じたい」と思う欲求です。この時に、「○○ができる自分だから大切」という条件つきの自分ではなく、ありのままの自分、たとえできないことがあっても自分を大切に思えることが重要です。

セルフエスティーム(自己肯定感、自尊感情、自己評価等と訳される)は、外見・性格・長所・短所・障害・特技など、自分のすべての要素をもとに作られる自己イメージを客観的に見て自信を持ち、欠点を含めありのままの自分を大切にしようと思う気持ちです。

セルフエスティームは次の2種類あります。1つ目が真のセルフエスティーム(自分らしく存在できると感じられる自尊感情)、2つ目が随伴的なセルフエスティーム(他者からの評価、競争、学業的有能さなどに関する承認による自尊感情)です。この、随伴的なセルフエスティームが高いと過剰適応や抑うつ傾向につながることがあります。真のセルフエスティームを育てるためには、不完全な自分を好きになることが大切です。その際、不完全なままの自分を肯定的に受け止めてくれる親や支援者、仲間の存在が重要です。実際、失敗したときや心身が弱っているときこそ、真のセルフエスティームを高めるチャンスでもあります。思い通りにいかない時や失敗した時に周囲から暖かく受け止められると、「自分は大切にされている」と実感できます。同時に、周囲からの心遣いやサポートを受け入れるという自らの姿勢も重要です。

➄ 自己実現の欲求

自分がやりたいことを追求したいという欲求 。詳細は後日まとめます。

家庭や学校・職場等で、何かうまくいかないと思う時、どのニーズが満たされていないでしょうか?

生理的欲求や安全の欲求が満たされていないことも多くあります。まず自分の土台である食事・睡眠といった生理的欲求を満たすために生活を整え、安全を脅かすものがあれば環境調整し、自分がよい状態をキープできるようになることがとても重要です。

医療機関で「眠れていますか?」「食事はとれていますか?」と聞かれることが多いのは、このニーズが満たされているかをチェックしているとも言えます。

その上で、円滑な人間関係、学校でより良い成績をとる、仕事でより良いパフォーマンスを発揮する等、満たされていないニーズを意識し、満たす方向で行動選択していくと、人生の満足感、充実感が高まると考えられます。