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他人の気持ちを考えすぎて疲れることへの対処法

 私たちは小さい頃から、他人の気持ちを考えて行動することの大切さを教えられてきます。学校や職場、家の中など、社会で生活している以上、周りの人がどんなことを考えているか、周りの人の目に自分はどのように映っているかを気にすることは自然な感情だと言えます。一方で、「他人の気持ちを考えすぎて疲れる」方もいらっしゃいます。ここでは、なぜ他人の気持ちを考えすぎて疲れるのか、また楽に他人とやりとりをするにはどうすればいいかについて述べていきます。本文は心理士鈴木が担当しております。

 この現象の背景として、主に2つの要因から説明出来るのではないかと考えています。以下の傾向が高い個人では、他人の気持ちを考えすぎて疲れることが多くなることが予想されます。

①自分の「予想」を「正解」に置き換えて考える傾向

 相手が自分のことをどう思っているか、自分の行動に対してどう感じているかは、正解がないものです。そのため、「相手はこう思っているだろう」という自分の”予想”は、間違っているかもしれないし、合っているかもしれません。また、この答えは時間経過によって変わりうるものでもあります。このような曖昧な状況をそのままにしておくことは、多くの人にとって居心地の悪いものとして受け入れられます。そのため、暫定的な正解をある程度定めておきたくなる気持ちが出てきて、自分の”予想”(こう思っているだろう)を”正解”(こう思っているに違いない)とする傾向が見られるようになります。

 先ほど挙げたように人との関わりに正解はありません。つまり、自分の予想が正解なのか不正解なのか分からない状態がずっと続いてしまいます。そうなると、自分の予想=正解を修正することは困難です。「きっとこう思っているだろう」という考えはあくまで自分の推論に過ぎないということを認識することが大事になってきます。

②自分の中での「気になるポイント」を相手にも当てはめて考えている 

 例えば、自分が話すときに言い方や声のトーンを気にするため、相手の言い方やトーンも気になり、そこから「きっとこう思っているだろう」という推論が始まることが考えられます。言い方やトーンを気にして話す人もいれば、あくまで内容を重視する人、どれくらい会話のラリーが続くかを気にする人など、「気になるポイント」は様々です。自分へのチェックが厳しい(チェック項目が多い)と、相手へのチェックも厳しくなり、結果として”予想”が生まれやすくなります。

 また、「他人の気持ちを考えすぎて疲れる」場合に多いものとして、相手の気分や言動の原因に関して「自分の振る舞いが良くなかった・・・?」「変なことを言ってしまったかもしれない・・・」と自分のせいだと感じやすいことが挙げられます。例えば相手が不機嫌になっていると感じたときに、「家族と喧嘩したんだろうな」「好きな野球チームが負けたのかもしれない」などと自分に関係ない他の要因も可能性としてはもちろん考えられるはずですが、それよりも「自分が〇〇したからかも」と自分を原因だと捉えることが多いのではないでしょうか。

 これには、人間がある程度共通して持っている認知バイアス(考え方の癖)が影響の一つとして考えられます。物事の受け取り方や解釈に偏りが生じる心理的な現象として、「認知のゆがみ」があります。認知のゆがみには様々な種類がありますが、その一つである「個人化」(何か良くないことが起こったとき、自分に責任がないような場合にも自分のせいにしてしまう)が関係している可能性があります。このバイアスが何らかの影響で強まることで、相手の気持ちを考えすぎる行動を維持させます。行動が維持されることでよりバイアスが強化され、相手の(特にネガティブな)言動は自分のせいだと確信を持って感じるようになることにつながります。

 このときの「何らかの影響」としては、その人の生い立ちや環境、性格傾向など多岐にわたる要素が考えられます。また、これらのうちのどれか一つというよりも、複数個の要素が重なり合わさっていることの方が一般的です。これについては個別性が高いためここでは扱いませんが、以降ではより一般的な視点から対処法を述べていきます。

 「他人の気持ちを考えすぎる」ということに対して、周りの人に相談しても「気にしすぎだよ」「相手はそんなこと考えてないよ」と言われることもあるかもしれません。そんなに気を遣い過ぎないようにしようと思っても、それでも何かしてないと落ち着かないと思うことも自然な反応だと言えます。そこで、まずは「気を利かせる」ことにシフトするというファーストステップをとることがおすすめです。

<「気を遣う」と「気を利かせる」の違い>

〇「気を遣う」=自分の価値観で判断したときの行動(自分本位)

 「相手はきっとこう思っているだろう」という自分の価値観で判断したときの行動が「気を遣う」行動に当てはまります。また、なぜこの行動をとるのかを深ぼって考えたときに、自分にとってネガティブなことを回避することが目的になっていることが多いです(例:嫌われる、恥ずかしい思いをする、変な人だと思われる、不真面目だと思われる)。他者に気を遣うことにより、実は逆に相手に気を使わせていることがあるという視点も重要と考えます。

〇「気を利かせる」=相手の価値観を尊重したときの行動(他者優位)

 自分の価値観は一旦置いておいて、「相手の為になるだろう」という動機でする行動が「気を利かせる」行動に当てはまります。この行動をするときには、必然的に相手に意識を向けるため、自分に原因がある・自分の影響が大きいだろうという認知の歪みである個人化を軽減することにもつながります。 ここで大事なのは、「相手の価値観や考えに意識を向ける、尊重する」ということです。「この人は優しいから表面上は何も言ってこないけど、心の中では怒ってるかもしれない…」と思うこともあるかもしれません。実際に相手がどう思っているかは分からず、想像している通り心の中では怒っている可能性もあるでしょう。しかし、「表面上には出さない」という行動を選択したのは相手の価値観・判断によるものです。実際にはイライラしているけれども、「イライラしている人」と思われたくないため明るく振る舞おうとすることは自然な反応です。他にも相手がとる行動の背景は色々と考えられますが、何にせよ相手の行動を尊重し、相手の言動に何も引っかかっていないように行動するということも、気を利かせた行動の1つと言えます。

<自分は自分、他人は他人=自分との約束事を守る>

 上記のようなファーストステップをとる際には、「自分は自分、他人は他人」と境界線を設けることが大事です。これを意識するだけでも、かなり楽になることが多いです。

 自分のことを「こういう人だと思ってほしい/こういう人だと思わないでほしい」ということを、自分の思ったようにすることは出来ないという事実を理解していく、そのような状況に慣らしていくことが大事であると考えています。最終的には、相手が自分のことを嫌ったとしても、それはそれで相手の意見だし仕方ないか、今仲良くしてくれている人を大事にしようと思えるようになると、相手の考えと自分の考えの両方を大事にできることに繋がります。

 また、自分と他人の境界線を設けるためには、自己肯定感を高めることが大事です。ここでの自己肯定感とは、今の自分に自信をもつことです。自分には何も出来ないと感じることが多いまま何も行動を取らないでいると、他人からの評価や言動が大きな意味をもつようになり、自分と他人の距離が近くなっていきます。そうなると、相手の表情や話し方などに自身の気持ちが大きく左右され、気を遣いすぎて疲れるという状態につながります。 今の自分に自信をもつためには、自分との約束事を守る練習をすることが大切です。どんなに小さなことでもいいので、「これをする」と決めた自分との約束事を守ることを継続すると、自分自身が信頼するに値する存在になることにつながります。これには、実際に行動を起こすことが不可欠です。「歯磨きをする」「散歩をする」など、ご自身が取り組みやすいものから、自分自身との約束事を守る練習をしてみてください。