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やる気スイッチと行動の習慣化について
2024年12月31日
心療内科・精神科では、「どのように考えたらいいか」「どのように捉えたらいいか」といった思考の問題や、「気分が落ち込む」、「涙が止まらない。悲しい」などの感情の問題を診療で扱うことが多いです。思考については認知療法などのカウンセリング、感情の問題についてはカウンセリング及び薬物治療で対応することが多いです。また痛み、動悸、眩暈、吐き気、下痢等の身体症状も主訴としては多く、薬物治療で対応することが多いのですが、本人の日々の「行動」の問題については脇に置きがちです。
「行動」は心療内科・精神科の診療においては非常に重要なポイントとなります。以下、認知行動療法という心理療法にて利用される図ですが、行動の影響で思考・感情・身体反応が影響を受け変容することがわかります。
行動からのフィードバックにより思考のバグや極端さを制御できるということです。無駄に反省して思考をぐるぐるさせるより、行動を繰り返し、成功・失敗も含めて何等かの結果を出し続けることで思考をよりニュートラルなものへ変えていくことができます。
行動なしではどうにもならないのが「自己肯定感」の問題です。何もしないで自宅に引きこもっていても自己肯定感上げることはできません。何等かの人の役に立つ、仕事で対価を得る、試験に合格するなどの行動の結果として自己肯定感は上がるものです。もちろん一定の行動をして結果を出していても自己肯定感が低いままのケースもあります(トラウマや宗教Ⅱ世の方で多いです)。それらのケースでは行動を促すよりも心理療法の併用が有効です。
行動で一定の結果をだすためには「継続して行動すること(習慣化)」が重要です。習慣化された行動の例として、日常の生活動作が多く含まれます。顔を洗う、髭をそる、化粧をする、歯を磨く、風呂に入るなどは習慣化されたもので特に苦に感じず継続できるものです。勉強や仕事も同様の習慣化すれば素晴らしい成果を生み出し、思考・感情・身体反応に大きな影響を与えることが可能になります。
習慣化に至るためには、短期の行動を「やる気スイッチ」を駆使して継続していくことが必要です(以下の図を参照)。
「やる気がないからなんとかしてほしい」、「やる気がないから何もできない」などの訴えは比較的多いです。「やる気がない」という状態について、うつ病などの疾病性のあるものから、ただ単にやる気がないものまで幅広い原因・背景があります。やる気を起こすための方法について(以下「やる気スイッチ」と呼称)、幻冬舎文庫「のうだま やる気の秘密1(上大岡トメ&池谷裕二著)」に詳しく記載されております。疾病性のないものであれば、やる気スイッチを利用することをおすすめします。
まずやる気に関連する脳の部位は淡蒼球といわれており、淡蒼球は無意識下で働くため意識的に活性化することはできないとされております。つまり自分の意思では、やる気そのものはでないということです。やる気スイッチについて本書では運動野、海馬、前頭葉、腹側被蓋野(テグメンタ)への刺激と活性化が重要とされております。
・運動野を刺激する
簡単にいうと「身体を動かす」ことです。例えばやる気がなくて掃除ができないというケースでは、とにかく少しの掃除、例えば机の上だけきれいにするだけでも、することが重要です。また掃除用具の例えば雑巾や箒を手に持つだけでもいいかもしれません。スモールステップで全然構いません。少し身体を動かすこと、つまり少しの掃除をすることで掃除をしようという気にだんだんとなっていくわけです。繰り返しになりますがやる気がでてから掃除をするのではなく、掃除をすることでやる気がでる訳です。勉強でも然りで、やる気がなくて勉強ができない場合は、ペンを持って机の前に座るだけでもいいと思います。
楽しいという感情についても、楽しいから笑うのではなく、笑うことでだんだんと楽しくなるといわれております。身体の動き、表情などによって脳に一定の信号が送られそれが刺激になりやる気や感情までが変化しているわけです。
淡蒼球とは人間を含む哺乳類だけでなく、爬虫類や魚類にもある原始的な部位で、その働きは「身体を動かす」ために使われる部位です。獲物から反射的に逃げるなどの動きに反応して活性化するわけです。人間においてはやる気と関係するとされますが、もともとは身体の動きと関連していたと考えると、身体を動かすこととやる気のつながりがより深く理解できます。
・海馬を刺激する
海馬とは記憶を保存する部位ですが、海馬の活性化は前頭葉への刺激となりやる気スイッチがはいるとされます。海馬は「いつもと違うこと」をすることで活性化されます。アルツハイマー型認知症では画像上海馬が萎縮しており、認知症の発症を予防したり進行をおくらせるために普段と違うことをして海馬に刺激を得ることが重要とされております。勉強でも普段と違う場所(カフェ)で勉強してみたり、掃除でも掃除用具を変えてみたり、普段しない料理に挑戦してみたり、普段運動しないのに走ってみたりと、普段と違うことをすると海馬が活性化し、やる気スイッチが入るとされております。
・前頭葉を刺激する
前頭葉は大脳の大きな領域を占め、思考そのものを行い、感情を制御し、判断・意思決定を行う部位です。本書では「思い込む」ことの重要性が記されております。「思い込む」ことを意識的に継続することで、それが無意識の淡蒼球に落とし込まれやる気スイッチがはいるとされます。例えば薬なども「この薬で治る、大丈夫」と思い込むと実際に薬の効果がより大きく発揮されます(これをプラセボ効果といい、非常に有名です)。スポーツでも実際に相手に勝つことをイメージしてそれを繰り返すことで勝利につながるイメージトレーニングは、スポーツ心理学では重要視されております。
・腹側被蓋野(テグメンタ)を刺激する
いわゆる「報酬系」への刺激です。何かしら行動をした際に快楽が得られるとその行動をさらに続けようとすることを利用するわけです。報酬系は1945年にオールズやルミナーのラットを使った恐怖反応の脳領域を調べる実験で発見されました。ラットがレバーを押すと電気ショックを受けると同時に報酬系をつかさどる快楽中枢(腹側被蓋野)へ刺激される仕組みです。ラットは不快な電気ショックをものとものせず、疲れて動けなくなるまでレバーを押し続けたようです。
報酬系はいわゆる「ごほうび」です。ごほうびには食べ物、欲しい物などが目に見えるものが分かりやすいのですがが、何かを達成することも立派なごほうびです。ごほうびを利用するときには、短期で小分けにする、長期的なものにする、変化をつけるなどバリエーションをつくり工夫することも重要です。
やる気については無意識領域の淡蒼球が担当しており、意識的にやる気はでないため、以上のようなやる気スイッチを利用して淡蒼球を刺激することが重要となります。やる気スイッチを有効に使用することで、行動そのものを継続することが重要です。継続した行動により、めんどくさいという心理自体がマンネリ化し、慣れが生じて行動は習慣化されます。。習慣化された行動は思考・感情・身体へ影響を与え、様々な精神・身体症状が改善されるわけです。
尚、本文も年の瀬に作成しておりますが、やる気スイッチを利用して作成したものです。