お知らせ
睡眠薬の正しい使い方と睡眠リズムについて
2024年7月3日
不眠を主訴に来院されている方が多いです。また他のうつ病、不安症などの精神疾患でも睡眠障害を併発していることが多いです。当院は医療機関であるため、薬物治療を中心としており、様々な睡眠薬や精神安定剤、抗精神薬を組み合わせて個別に対応しております。しかしながら、短い診療時間で薬についてすべて説明することは難しく、患者さん本人の薬の使い方や理解が不十分なことから、その効果をきちんと発揮できていないケースが散見されます。身体の本来のリズムに沿わず、自分の好きな時間に強引に寝ようとする方などがそのようなケースに当てはまります。睡眠薬は使い方を間違えると効果が不十分になり、使用量が増加し結果的に各種副作用が出現しやすくなります。今回は睡眠薬の効果を最大限し副作用を最小化するために、日常生活の条件や環境をどのようにしたらいいかについてまとめてみます。
睡眠は基本的に体内の生物時計のリズムによって自然に起こるものです。生物時計の1つのリズムに概日リズム(サーカディアンリズム)というものがあり、睡眠・覚醒のタイミングが制御されております。例えば日中は活動に備えて心拍数、血圧、深部体温が高くなり、夜になると松果体からメラトニンが分泌され深部体温が徐々に低下し自然な睡眠を促すとされております。現代社会においては、各人の仕事や勉強などの社会的なスケージュールが睡眠、運動、食事のタイミングに影響し、本来の概日リズムが狂いやすい状況におかれます。以下に概日リズムが狂いやすい間違った睡眠方法や考え方について、よく耳にするものを箇条書きにしてみます。当てはまるものがある方は注意してください。
・気絶するように寝たい
・自分の寝たいときに寝たい
・寝る直前までスマホをみていたい
・薬だけでなんとか問題を解決したい
・寝る前にお腹が空くので何か食べたい、食べないと眠れない
・晩酌をして深く眠りたい
・散歩や運動はめんどくさい、嫌だ
・朝日を浴びたくない
睡眠障害は入眠困難、途中覚醒、早朝覚醒、熟眠困難などいくつかに分類されますが、概日リズムをきちんと整えることは、どの睡眠障害の治療において必須事項です。下のグラフは体温と眠気の関係について簡単に表したものです。仮に24時つまり夜中の0時を入眠する時刻と仮定します(この時刻には個人差があります、若年層程遅くなります)。このグラフを参考に概日リズムを整えるために必要な条件や環境をまとめると以下のようになります。
・入眠時刻をコロコロ変えないこと
仕事や勉強などで入眠時刻を毎日コロコロ変更させることは避けた方がいいです。睡眠障害は仕事や勉強のパフォーマンス低下につながり、総合的にはマイナスの結果となるからです。体内リズムの変化に柔軟な方の場合は、多少前後に時刻がずれてもすぐに修復できますが、体質や年齢の問題で修復に時間がかかる方や一度くるってしまうと全くリズムが戻らなくなる方もおられます。入眠時刻はせいぜい30分程度前後にずらす程度にしてください。
・入眠時刻の1時間前に薬を飲むこと
薬を飲んですぐに布団に入って眠るというのは避けてください。飲んですぐには薬は効かないです。薬の効果が出現するには少なくとも30分程度かかるため、内服後30分で布団に入る→目をつぶり30分以内に眠るというサイクルにして下さい。
・薬を飲んだらスマホを控えること
スマホのブルーライトは体内時計を狂わせるほどのパワーはないといわれておりますが、脳の覚醒作用やSNSでの情緒的な興奮作用を通して入眠に悪影響を及ぼします。薬を飲んだ後についてはスマホの使用を控えて下さい。
・夜間の照明に配慮すること
夜間はできるだけ間接照明、暖色系照明にして照度を絞るようにしてください。
・朝日(午前中の日光)を浴びること
人間の生体リズムは光を浴びないと毎日10分程度後ろにずれるため、日々補正が必要となります。特に午前中(9時~11時)に光を1時間以上は浴びることを参考にして下さい。意識して数千ルクスの明るい光をみることが重要です(青空をみるなど)。
・昼寝・夕寝は15分以内にすること
昼寝、夕寝している方が非常に多いのですが、睡眠リズムがずれて固定化される場合があり注意が必要です。特に帰宅後に夕寝した場合、入眠時刻が後退することは避けられません。夕寝をする⇒入眠時刻が後退する⇒睡眠不足⇒次の日も1日中眠い、疲れている⇒夕寝する⇒・・・の悪循環に入るため注意が必要です。
・夕食をとる時刻に注意すること
入眠3~4時間前までに夕食を済ませてください。お腹が膨れた状態では消化機能が活発なため深い熟眠感を得られないとされております。入眠前に小腹が空いた場合は、ヤクルト1000や消化のいいものを軽く食べるようにしてください。
・昼間は適度に身体を動かすこと
昼間は横になりつつ、夜眠れないと訴える方も多いのです。適度な運動は良質な睡眠には必須なのは言うまでもありません。睡眠には夕方の運動がいいといわれております。
以上、睡眠障害で薬物治療をする上で協力頂きたい項目についてまとめました。以上のことをきちんとこなせる方については、睡眠障害があったとしても薬の量は少なくて済むため副作用や依存の問題は出現しにくいです。薬の副作用や依存についてばかり過度に注目し、ご自身の生活スタイルについては絶対に変えない、あるいは変えたくないとされる方の対応は困難な場合が多いです。