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雑談・意見・感想など
セルフコンパッションと自尊感情について
2022年8月2日
心療内科・精神科では不安障害・うつ病などの精神疾患を扱うのですが、「自己に対するこころのあり方」が治療の成否に大きく関わってきます。治療は焦らずじっくりが実は一番近道なのですが、このこころのあり方が邪魔して時間がかかってしまうことがあります。
「自己へのこころのあり方」に影響しているものとしてセルフコンパッションという概念があります。セルフコンパッションとは自分への慈しみを意味し、他者を思いやるように自分自身を思いやる能力のことで、ストレスのかかる状況で前向きな気持ちを保持するための技法のことです。「自分への優しさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」という3つの要素で構成されております。
またそれに近い概念として自尊感情というものがありますが、自尊感情は他者からの肯定的評価や、自分自身で他者より優れていると認識することに依存しており、成功体験によって形成されます。高まった自尊感情を維持するには本人の努力の継続が必要になる傾向にあります。
この世をわたっていくのに、このセルフコンパッションと自尊感情のバランスをとることが重要です。人間はどうしても他者比較の中で価値判断する傾向にあり、行動をして何らかの成果をだして自尊感情を高めていくことは重要です。しかし生きていく中で様々な不可抗力的な力や不条理な出来事(病気や事故、家族とのトラブル)があり努力しても成果がでない場合も多々あります。その時に少なくとも前向きでいるためにセルフコンパッションが必要となります。
例えばうつ病で本当は脳を休めることが必要であるのに、自分を労わるという概念そのものがなく、「休み方がわからない」「何かしないと気がすまない」といって脳を酷使し続け、自宅療養や抗鬱剤の効果が十分にでない方がおられます。セルフコンパッションが足りない状況と思われます。
また不安障害で行動療法を並行して行うのですが、一度でも課題ができないと「もう私はどうせ何をやっても駄目」「結局うまくいかない」と全部投げ出してしまう方がおられます。過去に成功体験が少ないため自尊感情が低く治療が進まないケースです。このようなケースではとにかく淡々と感情をまじえずに進み続けることが大事です。結果・成果がでないことには自尊感情が高まることはないから、とにかくすすむです。
セルフコンパッションについては過去の生育歴や家族関係の影響があり、自尊感情は過去の学校や会社での成功体験の有無が影響を与えます。通常の外来診療で治療に行き詰る場合はこのような「こころのあり方」を再考していくことも重要となります。少なくともセルフコンパッションについては一定の認知のトレーニングで得られることもあるので、カウンセリングなど並行して行うことも有効と考えられます。
コロナ禍と心理的孤立
2021年9月1日
昨年から長く続くコロナ禍の中で、様々な理由で精神的に不調を来す方が増えております。近年でもリーマンショックなどの経済的不況、東日本大震災などの災害によるうつ病やPTSD、自殺の増加などの問題もありましたが、今回のコロナ禍での特徴は、経済的問題もさることながら人間関係の関係性の変化もしくは物理的・心理的孤立による影響が長期間に及んでいるとというものがあります。
コロナ禍での昨年2020年度の自殺率について、通常であれば働き盛りの男性が増加することが多いのですが、女性やこども・若者を中心に自殺率が上昇したことが特徴的といわれております。特に第2波では女性の自殺率の上昇は37%にも及び、その中でも同居人のいる主婦の自殺が倍増しているといわれております。背景分析は様々と思いますが、いつもなら外で働いている夫や学校へ行っているこどもが家にいることで家族間の距離が適切にとれず潜在化していた家族内の葛藤が顕在化したことや、友人と外でランチやショッピングなどでストレス発散していたものができなくなったことなどがあげられます。もちろんそもそも女性の方が非正規雇用の方が多いので経済的な破綻も来しやすかったり、不安や恐怖に関係する扁桃体という脳の部位は活性化しやすく、連日のテレビ・マスコミの報道の影響で過度な不安を感じそれが影響しているのかもしれません。今回はその中でも人間どおしのつながりに着目します。
東日本大震災では絆というか人と人のつながりの重要性などがマスコミを中心に報道されましたが、今回のコロナ禍ではそのつながり自体がゆさぶられている現状が認められます。首都圏の大学生を中心とした若者でオンライン学習を半ば強制された方、1週間ずっと在宅ワークを1人でやっている方、サークル活動などの人付き合いができなくなった高齢者など様々な方に多大な影響を及ぼしたと思われます。逆に同居家族などでは共有する時間が増えて絆が増したといったこともありましたが、家族間で適切な距離がとれずに逆に関係性が悪化して大変であった例も多いと思われます。
孤立というものついて考えると面白いことがわかります。実際の物理的孤立と心理的孤立の違いです。たとえ他者と物理的・社会的な距離が近くても、自分のことを理解してくれない、自分の居場所がない、拠り所がない場合は心理的に孤立している状態と考えられます。これも東日本大震災の時の例ですが、同居する家族がいる方ほど自殺される方が多かったというデータがあります。今回のコロナ禍で主婦の自殺が増えたというのも、たとえ家族がいて物理的には孤立してなくとも心理的な孤立状態におかれていたことが影響した可能性があります。特に中学生などの思春期の人では学校での人間関係に重きがおかれ、そこでいじめられたり仲間はずれにされた場合に江戸時代の村八分に近い心理的状況が想定されます。江戸時代の村八分とは、あらゆる村(当時は世界全体)の行事などから追い払われ、社会的な死に匹敵する出来事でした。中学生などでは学校=江戸時代の村ととらえられる位のレベルの方もおり、そこでの孤立状態は本人にとって非常に耐えがたいものになることは想像にかたくありません。
孤立をなくすために人と人とのつながりを大事にしようにも、社会全体でつながりが分断されているのが現状です。一方では物理的に距離が近すぎて心理的な孤立が深まっている現状があります。心理的孤立を解消するのは非常に難しい面がありますが、患者さんがよく利用している対処方法として人間以外のものと繋がりをもつことなどがあります。例えば、動物・植物・神仏・自然などなどとの繋がりをもつことがいいかもしれません。猫を飼ったり、植物を育てたり、神社仏閣に通ったりしている方が多いですね。さらに歴史物や小説を読んで、昔の人や架空の世界と繋がりをもつこともいいかもしれません。
また孤立のいい点に目を向けることも重要です。それはは他者視点が少ない生活ができることです。多くの人は自分の人生でなく他者の人生を生きている場合が多いですね。親の期待だったり、周囲からの評価であったり、何らかの役割を演じてそれを本当の自分と思って生活しておりますが、自分1人だとその仮面自体があやふやになり、仮面をとった自分を意識しやすくなります。孤立は本来の自分に向き合うためには必要な過程かもしれません。
あと「人」に対する期待値を下げることも必要かもしれません。心理療法などは人対人で行われるもので、「人」というものの影響力は絶大であると実感できます。オープンダイアローグなども多職種の専門家とクライアントの対話を中心とした治療方法で急性の精神病といった対応困難と思われる事例でも一定の治療効果が得られるとされております。このように強い癒しのパワーのある「人」という存在なのでつい依存しがちになりますが、パワーがあるのでそれだけ副反応が大きいのも事実です。家族からの暴言、上司からのパワハラ、ちょっとした一言に反応して精神症状を急激に悪化させる方は多いです。逆に友人や上司に褒められたりするとそれだけで精神症状がぱっと改善することもあります。多くの人は「人」の意見や視点に翻弄されるわけです。特に家族に対しては期待値が過度になりがちなので注意が必要です。家族であっても他者であると頭の片隅の置いておくことも大事ですね。
最後に1つ忘れてはいけないのは、「人」は変わるという性質があります。つまり無常ということです。不安定な存在で期待通りに対応してくれないことがむしろ多いです。友達・家族も然り、先生も然りです。例えば学生時代に大の友人であったとしても、「人」には常に社会的な環境の影響や肉体的な変化(老化)がおきており、ひととなりも含めて一定ではないということです。考え方や趣味・指向について常に変化するものと考える方が自然です。変化するものなので明日の天気と同じで当てにはならず、お互いの関係性が変化していくのも致し方ないことです。自分という「人」自体もどんどん変わっていく中で、他人はなおさらかなと思います。変わりにくく安定しているものとしては薬の効果やお金の価値などがありますが、それに依存する人もいますね。
以上まとめると
・人間は心理的孤立状態におかれると、精神的な不調をきたす。
・心理的孤立状態への対応としては以下のものがある。
①「人」には強い癒しのパワーはあるが、無常で不安定であるため当てにならない。「人」への期待値を下げることが重要。特に家族への期待は過剰になりやすいので注意。
②孤立のいい点にも目を向けること。
③動物・植物・神仏・自然などなどとの繋がりを意識して生きている人もいる。読書などで昔の人、架空の世界との繋がりを意識することもいいかもしれない。
④お金の価値や薬の効果などはそれほど変わらないものなのでそれに依存する人もいる。
今回のコロナ禍では強制的に物理的・心理的孤立状態におかれる中で、他者視点を意識しないで1人1人が自分自身をみつめて個として安定して生きる能力が問われているとも思います。
当院通院中の方で、統合失調症、自閉スペクトラム症、社会不安障害、広場恐怖症、醜形恐怖などの方には比較的影響が少なかったと思われます。もともと人や人混みが苦手であったり、自閉的で孤立した生活やマスクを好む方などは、コロナ禍でも生きづらさを感じにくくむしろ安定した生活を送っており興味深い限りです。多くの人が生きづらさを感じる中で、逆に生きやすくなる方もいる人間社会の多様性と懐の深さを再認識させられる毎日です。
コロナワクチン接種と免疫について
2021年8月3日
最近通院患者様からコロナワクチン接種の可否について問い合わせが多くなっております。基本的に、急性の疾患(現在風邪を引いている、帯状疱疹など発症している)や過去にアナフィラキシーを起こした人以外の方について当院通院中の方は接種可能と思われます。薬の飲み合わせなどについても特段問題ないと考えます。
ここからは私見です。コロナワクチンについて重症化予防には効果があるとされておりますが、感染予防についてはデルタ株にて低下傾向にあるというデータがでてきており、ワクチンでの集団免疫の確立は困難になりつつあります。従来と話しが変わってきております。抗体価も時間とともに低下するデータもでてきており、イスラエルなどワクチンを先に打った国では3度目のワクチン接種が開始されております。
ワクチン接種について感染予防効果は低下し集団免疫が困難になる一方、重症化予防にはいまだ効果的という点からいうと、65歳以上の高齢者、40歳以上の持病持ち(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喘息、喫煙者、担癌患者)以外の方では積極的なワクチン接種の意味が薄らぎつつあります。接種のメリット・デメリットを慎重に検討の上、自分自身で判断して接種された方がいいかなと思います。
ただしどの年代でも全員に共通して有効なのは自己の免疫力の強化です。TVやネットニュースではソーシャルディスタンス、マスク、換気などの環境面の問題やイベルメクチン、抗体カクテル療法などの治療方法については様々な議論がありますが自己の免疫力を上げることへの議論はワクチン以外皆無に等しいです。数値化ができないことで論点になりにくいのでしょう。ただし、クラスターが起こった場所でも感染する人、しない人がおり、宿主側の免疫力・抵抗力は非常に重要な要素と考えらます。
今後コロナウイルスがどんな変異をしようとも自己の免疫で制御できると考えれば、ワクチンの接種ができない! 薬が効かない! などと恐れることは少なくなると思います。過剰な不安感は免疫力に影響するので注意が必要です。人間の自然治癒力は非常に大きいので、医療ばかりでなく自分の力を信じることも大事です。
当院は心療内科ですが、基本的な生活習慣やバランスのよい食事、適度な運動の有無が心や脳の問題に大きく関わっていることは日々実感しております。単なる寝不足やゲームのやりすぎ、偏った食事内容、酒の飲みすぎなどがうつ病の原因だったりします。過去のお知らせにも書いた内容ですが、免疫力を上げるまたは保つために必要な配慮を下記に箇条書きにするので参照ください。親が子供にいうような当たり前なことなのですが、意外とできていない方が多いですね。
・無理しないこと。
・よく眠ること。夜更かししないこと。
・バランスのいい食事を心がけること。食べ過ぎないこと。たまに断食すること。
・適正体重を維持すること(BMI18以上25未満)
・腸活をして便秘を予防すること。
・よく噛むこと。一口30回以上。
・適度な運動をすること。散歩・ストレッチ程度でよい。
・日の光を1日30分程度浴びること(真夏は10分程度でもよい)。
・よく笑うこと。嫌なことは忘れること。
・余計なストレスを溜めないこと。受け流すこと。
・むやみに怒らないこと。
・歯磨き、歯石除去をしっかりやって口腔内を清潔に保つこと。
・鼻うがいをすること。
・毎日お風呂に入ること。
・お酒は控えめにすること。週3日以上は休肝日とすること。
・喫煙しないこと。
・からだを冷やさないこと。
・サウナでサ活をすること。