お知らせ
トラウマ診療に関すること
ポリヴェーガル理論と耐性領域(耐性の窓)について
2025年1月22日
以下、トラウマ診療において基礎となるポリヴェーガル理論について心理士沓名がまとめました。トラウマの診療を受ける上での参考にして下さい。
「興奮して、頭にカーっと血がのぼり、よく考えられない」「フリーズして思考停止してしまった」「気持ちのアップダウンがあまりに激しい」など自分でコントロールしづらい状態に陥ることがあると思います。その際、どうしてそのような状態になってしまうかを理解する上で、ポリヴェーガル理論はとても役に立ちます。また、そのような状態では、理性的に考えることは難しくなるため、まずは自分の体と心が安心を感じるよう落ち着かせることが大切になります。
ポリヴェーガル理論は、1994年に精神医学博士のスティーブン・ポージェスが提唱した理論です。
ポージェスが博士は上記のような思索を経て、「生物が危機的状況の時、どの神経経路を使って自己調整・環境適応するのか」を生物の進化に伴う自律神経の発達から説明しました。それまで、生物が危機的状況になった時、交感神経が優位になり「闘争―逃走本能」で敵と闘うか逃げるか、あるいは副交感神経が優位になり「死んだフリ・凍りつき」で攻撃を免れる方法をとっていると考えられていました。しかし、ポージェス博士は、副交感神経を2種類(背側迷走神経複合体・腹側迷走神経複合体)に分け、人などの高等哺乳類は、腹側迷走神経複合体を働かせ、「他者と交渉する」等の方法をとることを明らかにしました。
進化の過程で神経がそのような働きをするということを考えると、高等哺乳類である人間も、「闘争・逃走状態になってカーっとしたり、頭が真っ白になってフリーズしてしまうのは体が反応してそうなってしまうのだ。そのような状態を理性でコントロールするのは難しい・・・」という気持ちになれるのではないでしょうか。そのような状態の自分を「こうすべき」「こうしなきゃ!」「できない自分はダメだ…」等いたずらに責めるのではなく、むしろ「自分の体と心が危険・非常に嫌だと感じている。まず危険・非常に嫌なものから離れ、安心感を取り戻さないと!」と、考えることが大切です。
さて、改めて「頭に血がのぼってよく考えられない」「フリーズして思考停止してしまった」「気持ちのアップダウンが激しい」状態を考えてみましょう。
「頭に血がのぼってよく考えられない」 = 交感神経が優位な状態
「フリーズして思考停止してしまった」= 副交感神経(背側交感神経)が優位な状態
「気持ちのアップダウンが激しい」=交感神経と副交感神経(背側交感神経)が交互に行き来する状態
と言い換えられます。
これらの状態をもう少し詳しく見ていきましょう。
上記の「交感神経系(アクセル)」 「背側迷走神経系(ブレーキ)」 「腹側迷走神経系(チューニング)」3つの神経状態と、それぞれの神経状態がブレンドした「交感神経系(アクセル)」×「腹側迷走神経系(チューニング)」、「背側迷走神経系(ブレーキ)」×「腹側迷走神経系(チューニング)」、「交感神経系(アクセル)」×「背側迷走神経系(ブレーキ)」の6つの状態のいずれかに人の神経状態はあるとされています。
この「腹側迷走神経(チューニング)」が働いている領域を、ダニエル・シーゲル博士は、耐性領域(耐性の窓)と表現しています。耐性領域(耐性の窓)は個人がストレスに対して許容できる範囲のことです。 この領域では、ストレスに対して対処できたり、感情のコントロールを保てたりします。耐性の窓の幅は個人差があり、幅が広い人ほど、ストレス対処や感情のコントロールを保てます。また、トラウマ治療では、神経状態が耐性領域にある状態でトラウマを想起することで、トラウマの処理を進めます。逆に、耐性領域以外での神経状態でトラウマを想起しても、ストレスを感じるだけで処理が進まないとされ、耐性領域を重視しています。
自分の神経状態は、今、上図のどこに位置しているでしょうか?
そこに意識を向けることが、自分の調子を整える大切な一歩になります。そして、腹側迷走神経(チューニング)を活性化させることが大切になってきます。
自分の調子と整えるツールとして、ぜひ、ポリヴェーガル理論や耐性領域の考え方を活用してみてください。