お知らせ

高校生の診療に関すること

思春期妄想症について

 思春期は自分が人からどう思われるのかについて、他の世代より気にしてしまう時期です。思春期心性として自然なもので、自我の発達過程で必要な過程なのですが過剰になった場合は病的なものと考えられます。

 例えば、周囲の人(ほとんどが友人)が話しているだけで自分のことを噂していると考えたりすることがあります。これを関係念慮または関係妄想といいます。また自分は体臭がひどく人に臭いと思われているといった自己臭恐怖、自分の顔は明らかに劣っている、不細工であるといった醜形恐怖、人にじっと見られているといった視線恐怖(逆に自分の視線が人に迷惑であると考える自己視線恐怖)に至るまで様々なものがあります。これらをまとめて思春期妄想症ということがあります。

 外に出られず不登校になることもあり、病的なものであれば治療介入を行います。薬物療法だけでは難しいケースが多いため心理カウンセラーによる心理療法(認知行動療法など)を組み合わせることが多いです。

SNSとメンタルヘルス

 当院の診療で高校生や大学生をみているとSNSの影響を受けている方が多く認められます。男子学生よりも女子学生に特に多い印象です。

 SNSが学生のメンタルヘルスに与える影響についてまとめた論文(1)をみつけたので、その要点をまとめてみます。SNSの良い点の記載もあったのですが今回は割愛させていただきます。

The U.S. Surgeon General’s Advisory (2023). Social Media and Youth Mental Health. (1)

・米国では13~17歳の95%の学生がSNSを利用している。

・10~19歳の時期はこどもの脳の成長にとってきわめて重要な時期であるが、SNSを長時間利用すると感情を制御する扁桃体、衝動性を制御する前頭前野が明確に変化する。

・あるコホート研究では、12~15歳の学生について1日3時間以上のSNSの使用で不安やうつなどの精神疾患のリスクが2倍になったと報告されている。

・逆に3週間以上30分以下にSNS利用を制限した所、うつ状態の著しい改善が得られたとされる大学生対象の研究もあり。

・SNSの影響は男子学生より女子学生でより大きい。

 以上のようなことが記載されておりましたが、要するにSNSに長時間さらされると脳の形態変化も含めて様々な精神疾患のリスクを高め、使用を制限するとリスクが低減されるとのことでした。

 精神疾患との関係について様々な記載があったのですが、以下に要点をまとめます(一部追加して加筆しております)。

① 他者との比較による心理的影響

 SNSでは他者との距離感が安定せず、誰とでもいつでも繋がれることから、他者と必要以上に比べやすい環境となります。実際以上の「幸せアピール」する人も多く、キラキラする人と比較することで自己肯定感が無駄に低下しやすくなります。ボディイメージや食習慣も混乱しやすくなり、摂食障害や醜形恐怖の発症・悪化に影響するといわれております。

② 誹謗中傷・有害コンテンツによる心理的影響

 よくいわれてることですが、ネットやSNSでは匿名であることから誹謗中傷・いじめが溢れております。米国では2/3の学生が差別を助長するような有害なコンテンツにしばしばさらされているといわれております。またリストカットによる出血や自殺のマニュアルなどのコンテンツも広く認められ当然悪影響を及ぼします。心理的には疎外感・孤立感を招きやすくなり、自傷行為や自死の誘発、またうつ状態の悪化などに影響を及ぼすといわれております。

③ 睡眠障害

 米国では1/3が0時過ぎまでSNSに常時さらされているというデータがあります。睡眠時間の短縮のみならず、入眠困難や睡眠の質の悪化にも影響を及ぼします。特に10歳台の場合には脳の神経発達に悪影響を与えると共に、睡眠不足がうつ状態や自殺念慮の悪化に影響を与えるといわれております。当院でも睡眠時間の確保のため、まずはブルーライトオフの時間を約束することから治療を開始しております。

④ ADHDの悪化

 明らかな原因は不明ですが、ADHDの病態にも影響を与えるといわれております。2年程度の観察研究では、SNSを中心に生活するとADHD症状が有意に増悪したとされております。中核症状のみならずADHDの2次症状(不安、抑うつ・神経症)へも影響を与えるといわれております。

➄ 依存の形成

 依存症というと元々はアルコールや覚醒剤・大麻などの物質への依存が中心でしたが、最近はギャンブルやスマホなどの行動に関する依存症にスポットが当てられております。SNSは脳の報酬系を過度に刺激し依存しやすい状態を作り出すとわれており、国内では久里浜医療センターを中心とした施設で臨床・研究がなされております。

 本論文では、対策方法なども記載されておりましたがここでは割愛します。

 当院での診療でもSNSと特に女子学生への影響については大変危惧していた所で、本論文の内容について臨床的に至極もっともなことであると再認識しております。

 特に高校生男子のゲームについて②~④についてほぼ一致しております。SNSやゲームの使用をいかに制御するかが治療の基礎になることがわかります。