お知らせ

高校生の診療に関すること

親のエゴの治療への影響について

 不登校のケースの場合の進路には以下のようないくつかの道があり、本人の特性、疾病性、性格傾向、学校の対応の柔軟さ、親の経済力などを総合的に分析しフラットな視点で今後の道を選択することが重要です。

・普通高校でそのまま頑張る(留年も含む)

・通信制高校へ転校(転校)

・高卒認定をとる(退学)

・通信制転校+高卒認定

 社会に出て就職するのに高校卒業は必要と考えますが、そもそも社会では最終学歴の大学が重要視されるため、大学受験への準備として普通高校のカリキュラムにはやや無駄が多いと考えます。ケースによっては無理な戦い(そのまま通学)をして消耗するよりは「戦略的撤退(転校や退学)」をして次の戦い(大学や専門学校進学)に備えることも重要と考えます。

 今後の道の選択の際に家族、特に親の姿勢や態度・意向は本人の道の選択に大きな影響を与えます。本人、親、治療者が同じ方向を向いていれば問題になることは少ないのですが、方向性の相違が大きい場合、こども本人に無用の混乱をもらたし治療経過に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。

 親自身の問題を背景に問題が複雑になっていることがあり、そのようなケースで代表的なものに以下の3つの場合があります。

・経済的な問題や病気などで親自身に生活の余裕がない場合

・親自身のメンタルがそもそも不安定な場合(過剰な不安など)

・親自身のエゴが強い場合

 今回はエゴの問題について扱います。エゴはこだわり・執着とも言い換えていいかと思います。心療内科の診療でも、治療過程で患者さんのこだわり・執着が強いとなかなか精神症状が改善しないということがよくみられます。絶対~とか、必ず~とかいう言葉はこだわり・執着と関係が深い枕詞です。

 エゴと関係が深いものに、親の人生上の問題をこどもに投影している場合があります。親自身の人生での不全感や劣等感を解消しようと、こどもの人生の成功=自分自身の成功と同一化しこどもの人生に過度の期待をしてしまうのです。どの親でも、ある程度投影することは健全なのですが、過剰な場合こどもの人生に悪影響を及ぼす可能性があります。こども本人の特性や性格は後回しになり、親自身の価値基準が第一に優先されます。親がやたらと学校名や成績にこだわる場合、その背景に投影の問題が潜んでいないか注意が必要です。

 逆に子の成功に嫉妬して、こどもの成功を無意識レベルで邪魔するという不思議な現象もあります。無意識化されているため、気付きを得ることは困難を極めますが、親自身の自己愛がきちんと形成されていない場合にみられることがあります。

 両親の仲が悪い場合や喧嘩が絶えない家庭、アルコール依存症の父親がいるなどの崩壊家庭では、こどもが人の顔色をうかがい過度に周囲に合わせる傾向になることがあります。もともと繊細で優しい性格の場合にその傾向に拍車がかかりますが、これを過剰適応といいます。ネットや書籍ではアダルトチルドレンということばで説明されていることもあります。過剰適応の場合は自身の意向よりも親の顔色をうかがい、親の意向にあわせようとします。一見いい子であり問題はありませんが、無理な適応を続けた結果心身に不調(主にうつ状態)を来すことが多いです。アイデンティティの形成がうまくいかず、大人になっても「自分が何者かわからない」と苦悩するケースも多いです。過剰適応のこどもの場合は親のエゴに対してもそれを一生懸命に叶えようとします。反発や抵抗がないため親も気づかない場合が多く、注意深い観察が必要です。

 また神経発達症の傾向があるこどもの場合、独特な考え方や行動をするため高校生活で不適応を起こしやすいです。考え方があまりに独特な場合、宇宙人に近いと考えるとわかりやすいです。コミュ障で友人ができにくく、過敏さやこだわりも強いため集団生活そのものが不得手です。無理に頑張ろうとしても、上手くいかない場合が多く通信制高校に転校するなどの環境調整やSST(ソーシャルスキルトレーニング)が治療の主体になります。高校時代に無用なトラウマを抱えるリスクは避けることが望ましいです。神経発達症の方は大人になってもあちこちで不適応を起こすため、本人の特性を早めに見極め、どのような大人を目指すか、あるいは職業を目指すかの方向性を決めて、それに向けて全集中していくのが一番コスパのいい戦略で本人もそれを好むことが多いです。親もこだわりが強いケースが多く、「とにかく普通高校は絶対に卒業すること」に親が執着し厄介になる場合もあります。

 話はエゴから少し反れますが、統合失調症の場合はとにかく無理をしないことが望ましいです。統合失調症は、徐々に脳の機能が衰える病気であり、脳への過剰な負荷は厳禁です。現実検討能力の低下から、本人もできないことをできると主張し、普通高校への通学や大学進学を強く希望される場合が多いです。本人に繰り返し説得して負荷の少ない方法や生き方を模索し、福祉の援助もかりつつ将来に備えることが重要です。親の疾病理解も非常に重要です。本人の意向に沿うことで逆に病状を悪化させることがあり、他の疾患とは対処法が異なるためです。過度な負荷は幻覚妄想状態という陽性症状を誘発し脳の機能をさらに低下させるため避けることが望ましいです。

 重度の社会不安障害、思春期妄想症では特に同学年の人たちとの接触で過度の不安・緊張が強いられるため、一旦は撤退(転校や退学)することも重要な戦略の一つです。治療としては徐々に他者に暴露していく暴露反応妨害法が有効なのですが、通学したままであると行動実験においての暴露の刺激が強すぎ治療がうまくいかないケースが多いためです。学校側が別室登校やレポートで単位取得を認めてくれるなどの配慮があればいいのですが、一般的には難しいことが多いです。

 薬についてもフラットな見方が重要です。薬漬けにされる、薬を1回使ったら辞められないといった伝聞やネット情報に影響され、絶対に薬は飲んではダメといった親もおられます。長期的に使用され一定の効果が評価されている薬については、必要であればきちんと服用すべきです。本来はこどもの病状の回復や将来が重要なのですが、薬の内服の有無に過度に囚われている場合は、今一度俯瞰的に考えることが必要です。

 仏典でも、人の苦の原因はこだわり・執着であるときちんと記載されており、その執着が滅した状態が悟りであるとされます。様々な執着(財産、家族、地位、名誉など)とその結果としての苦については過去の仏典で詳しく解説されており、人生の様々な問題を複雑にする根底には執着があると考えます。生きている限り執着を完全に滅することは困難ですが、以下の点を意識して頂くとありがたいです。

・こどもとは、そこそこの距離で関わること(過剰でも過少でもなく中庸を目指します)。

・自分とこどもは別人格であるため、自分の問題とこどもの問題をきちんと分けること

・こどもが精神疾患であれば、その疾患のことをきちんと学ぶこと(ネット情報に過度に依存せず、きちんとした教科書や成書で学習することが勧められます)。

・自分自身の心理的な問題(トラウマなど)や性格傾向にもきちんと向き合い意識すること(特に自分自身に神経発達症の傾向があり、こだわりが強い場合は注意です)。

・老害を避けるため、世の中の価値観や考え方がどんどん変化していることを認め、おおらかで柔軟な思考を心がけること。

・子育て自体が自己の人格的な成熟を促すありがたいものです。こどもという存在に感謝し上から目線でなく謙虚な態度で接すること。

こどもが元気に生きているだけでもありがたいと思うこと。こどもを失うことを想像するだけで、自分の執着の馬鹿馬鹿しさが理解できます。

感情ではなく理性を重視すること。感情を出す時も、きちんとコントロールすること。


 以上、診療の中で問題になる親のエゴについてあれこれ記載させて頂きました。こどもの幸せを追求することはどの親でも至極当たり前なのですが、エゴという厄介なものを意識化しきちんとコントロールしていく姿勢が重要と考えます。

高校生の不登校でよくみられる「スイッチ」について

心理士鈴木記載の文章です。鈴木は普段高校生のカウンセリングを多く行っております。診療の参考にして下さい。

 当院では高校生も受診されることがありますが、成人とは異なる高校生に特有の悩みとして不登校が挙げられます。不登校に至る背景は様々で、詳しくは当院HPの「高校生のメンタルヘルス」をご参照ください。

 ここでは、そのうちの1つであり最近多く見られるものについて取り上げたいと思います。それは、「友人や先生との間に特に大きなトラブルはなく、周りから見るとなぜ登校できないのか分からないけれども不登校が続いている」というものです。本人に卒業したい意思はあるものの、登校しないため欠席回数が増えていき、もう少しで単位が取れず留年になってしまうという状況で受診されることが多いです。本人以上に親御さんが事態を重く受けとめ、何とか登校できるように苦心されている印象です。

 このような場合のなかには、本人なりに学校へ行くためのスイッチがあり、そのスイッチが押されると、これまでとは打って変わって毎日登校を続けるということも珍しくありません。中学までは「学校へ行くのが当たり前」というスイッチが押されているため、登校が続いていることが多いですが、高校生になると環境も変わって、別のスイッチが押されるようです。

 このスイッチが何なのかを明らかにすることは難しいですが、あと1回授業を休むとその単位が取れないというような、出席回数がギリギリになることそのものがスイッチとなっていることがあります。そのような場合、ほとんどの授業の単位取得がギリギリになった段階で、登校し始めるということにつながります。

 スイッチが押されやすくするためには、あと何回休むと単位が取れなくなるということを数字で表すことが大事です。「数IIの授業はあと〇回で単位がとれなくなる」、「体育の授業はあと〇回」のように、全ての授業について残りの欠席可能回数を示す必要があります。出席数が足りなくても補修を受ければ単位が取れる、というようなパターンについても、出来るだけ曖昧にせずに全て書き出してみてください。あと何回であるか自分で把握していない場合は、正確な日数を担任の先生等に確認するようにしてください。こうすることで、あとどれくらい休むと単位が取れなくなるかを明確に意識することにつながります。

 また、本人なりの学校へ行くためのルーティーンのようなものがある場合があり、そのルーティーンを行える環境づくりが大事です。例えば、「制服を着る」がスイッチの1つになっていることもあり、制服を着たら流れで登校まで進められるという方もいらっしゃいます。その一方で、制服を着てしまうと登校せざるをえなくなると考えることから、制服を着ることが出来ない方も多いです。

 起床時から順番に行動を書き出し、どこまでは負担なく出来る行動なのかを明確にすることが役立つ場合があります。目を覚ます→起き上がる→電気を点ける・・・等、毎朝のルーティーンを思い返し、最初に嫌だなと思う、抵抗感がある行動をピックアップします。内容にもよりますが、それをしなくても済むように次の行動に進められるようにルーティーンを組み替えることで登校に対する負担感が軽減されることがあります。何が本人にとってしっくりくるかはやってみないと分からないところも大きいため、色々試してみることが大事だと思われます。

 周りの人や親御さんからすると、ギリギリまで粘って学校を怠けているように見えるかもしれません。また本人も、自分が無意識にそのような基準に沿って行動している場合は、どうして突然学校へ行けなくなったのか自分でも分からず、困惑していることもあります。共通して言えるのは、ギリギリにしようとしてわざとやっている可能性はかなり低いということです。それよりも、もっと余裕をもって過ごせたらと思っているけれども、なぜかそれが出来ずギリギリになってしまうということの方が多いです。

 そのため、周りが焦って本人を登校させようと働きかけても、スイッチが押されない以上あまり効果的であるとは言えず、むしろ「自分のことを分かってくれない」という気持ちを強めることにつながる可能性があります。

 登校しているかどうかだけが大事なのではなく、登校していない今の状況で感じていることに目を向けることも大切です。これは本人だけでなく、親御さんにとっても同様だと考えています。周りと比較して焦りや不安を感じていたり、苦しい状況から一時的に抜けられている安堵感を感じていたりもするかもしれません。どうしてそう感じるのかを紐解くと、自分が何を大事にしているのか、どういう価値基準で生活しているかを理解することにもつながります。また、カウンセリングではこのような考え方(認知)に注目して、それが唯一の考え方なのか、他の捉え方も出来るのではないか等を改めて振り返ることもあります。

 以上より、出席日数を可視化すること、ルーティーンの中で登校を阻害している要因がないか一つずつ確認すること、そして今自分が感じていることの背景にはどういう価値観があるのか向き合ってみることが、大切なことだと考えています。

ミソフォニア(misophonia)について

 ミソフォニアmisophoniaは音嫌悪症といわれ、特定の音に対する強い否定的感情(怒り・嫌悪)と不快な身体的反応を示す疾患です。当院の外来でもたびたび遭遇する疾患で、簡単にまとめたいと思います。特定の音に対する不快感情のため、日常の特定の場面や状況で、生活することそのものが困難になり受診につながることがあります。

他人の咀嚼音が不快な理由は音嫌悪症の可能性が高い - ナゾロジー さん


 具体的には、家庭内では嫌いな家族(例えば父親)が出す咀嚼音や生活音であったり、学校では友人が出す高い声であったり、職場では人が叩くタイピングの音であったりケースにより様々です。強い不快感情や併発する身体症状(頭痛・吐き気・めまい等)のため不登校や出社困難になることもあります。

 性別では女性に多く、患者さんの平均年齢は35歳程度といわれておりますが、発症は思春期に多いとされております。

 原因は、先天的というよりは後天的であり、感覚(聴覚)がトラウマと化したものといわれております。例えば自分の非常に嫌いな人がいて、その人がたびたび出す音や声に長期間、理不尽に晒され我慢しつづけた結果、音や声がトラウマとして脳に傷が残り「特定の音⇒不快感情」という神経回路ができてしまうことが背景にあるといわれております。

 強迫性障害、うつ病、ADHDなどの精神疾患や気管支喘息などの身体疾患に合併しやすいといわれております。

 治療としては音そのものを避ければいいわけですが、日常に溢れた生活音であったりすると耳栓やノイズキャンセリングも上手く利用できず生活そのものに支障がでます。また音そのものの問題ではなく音が媒介する嫌悪感が治療のターゲットといわれております。


 薬物療法としてSSRIを使用することがありますが、治療としては認知行動療法などの心理療法が有効とされております。トラウマが強い場合はトラウマに焦点を当てた身体志向の心理療法も併用することが望ましいです。