お知らせ
診療内容に関する読み物
周産期の薬物治療について
2023年9月5日
周産期の向精神薬の扱いについてよく質問されるので、お話ししたいと思います。簡潔にいうと、産前・産後ともに多くの向精神薬は問題なく使用可能です。
当院ではバルプロ酸、炭酸リチウムなどの気分安定薬のみ催奇形性のため使用不可にしております。他の抗うつ薬や抗不安薬については、必要があれば内服、必要がなければ中止または減量としております。もちろん母乳移行の問題などありますが、大きな問題になることはないです。それでも心配であれば母乳&ミルクの混合乳の利用もいいかと思います。
不安症状が強いと早産を誘発するというエビデンスもあり、そのようなケースでは積極的に向精神薬を使用すべきと考えます。
何かわからないことなどございましたら診察時に質問して頂くか、LINEにてサポートチャットで質問下さい。
SNSとメンタルヘルス
2023年7月14日
当院の診療で高校生や大学生をみているとSNSの影響を受けている方が多く認められます。男子学生よりも女子学生に特に多い印象です。
SNSが学生のメンタルヘルスに与える影響についてまとめた論文(1)をみつけたので、その要点をまとめてみます。SNSの良い点の記載もあったのですが今回は割愛させていただきます。
The U.S. Surgeon General’s Advisory (2023). Social Media and Youth Mental Health. (1)
・米国では13~17歳の95%の学生がSNSを利用している。
・10~19歳の時期はこどもの脳の成長にとってきわめて重要な時期であるが、SNSを長時間利用すると感情を制御する扁桃体、衝動性を制御する前頭前野が明確に変化する。
・あるコホート研究では、12~15歳の学生について1日3時間以上のSNSの使用で不安やうつなどの精神疾患のリスクが2倍になったと報告されている。
・逆に3週間以上30分以下にSNS利用を制限した所、うつ状態の著しい改善が得られたとされる大学生対象の研究もあり。
・SNSの影響は男子学生より女子学生でより大きい。
以上のようなことが記載されておりましたが、要するにSNSに長時間さらされると脳の形態変化も含めて様々な精神疾患のリスクを高め、使用を制限するとリスクが低減されるとのことでした。
精神疾患との関係について様々な記載があったのですが、以下に要点をまとめます(一部追加して加筆しております)。
① 他者との比較による心理的影響
SNSでは他者との距離感が安定せず、誰とでもいつでも繋がれることから、他者と必要以上に比べやすい環境となります。実際以上の「幸せアピール」する人も多く、キラキラする人と比較することで自己肯定感が無駄に低下しやすくなります。ボディイメージや食習慣も混乱しやすくなり、摂食障害や醜形恐怖の発症・悪化に影響するといわれております。
② 誹謗中傷・有害コンテンツによる心理的影響
よくいわれてることですが、ネットやSNSでは匿名であることから誹謗中傷・いじめが溢れております。米国では2/3の学生が差別を助長するような有害なコンテンツにしばしばさらされているといわれております。またリストカットによる出血や自殺のマニュアルなどのコンテンツも広く認められ当然悪影響を及ぼします。心理的には疎外感・孤立感を招きやすくなり、自傷行為や自死の誘発、またうつ状態の悪化などに影響を及ぼすといわれております。
③ 睡眠障害
米国では1/3が0時過ぎまでSNSに常時さらされているというデータがあります。睡眠時間の短縮のみならず、入眠困難や睡眠の質の悪化にも影響を及ぼします。特に10歳台の場合には脳の神経発達に悪影響を与えると共に、睡眠不足がうつ状態や自殺念慮の悪化に影響を与えるといわれております。当院でも睡眠時間の確保のため、まずはブルーライトオフの時間を約束することから治療を開始しております。
④ ADHDの悪化
明らかな原因は不明ですが、ADHDの病態にも影響を与えるといわれております。2年程度の観察研究では、SNSを中心に生活するとADHD症状が有意に増悪したとされております。中核症状のみならずADHDの2次症状(不安、抑うつ・神経症)へも影響を与えるといわれております。
➄ 依存の形成
依存症というと元々はアルコールや覚醒剤・大麻などの物質への依存が中心でしたが、最近はギャンブルやスマホなどの行動に関する依存症にスポットが当てられております。SNSは脳の報酬系を過度に刺激し依存しやすい状態を作り出すとわれており、国内では久里浜医療センターを中心とした施設で臨床・研究がなされております。
本論文では、対策方法なども記載されておりましたがここでは割愛します。
当院での診療でもSNSと特に女子学生への影響については大変危惧していた所で、本論文の内容について臨床的に至極もっともなことであると再認識しております。
特に高校生男子のゲームについて②~④についてほぼ一致しております。SNSやゲームの使用をいかに制御するかが治療の基礎になることがわかります。
心理士コラム②
2023年5月10日
「ありがたくないプレゼント」 ~症状の意味を問う~
心理士沓名のコラムです。
ある精神科医の先生は、症状について次のように述べています。
頭によって心の奥の方に追いやられている本当の自分の欲求があります。その欲求が頭によって押さえつけられて、意識化されない。心から発せられる真の欲求が頭からのコントロールによって、「まあまあ、そうはいっても現実は・・・」と後回しになったり、「そういうことは望んではならない」と抑圧されると、その抑圧されたエネルギーが我慢しきれなくなってメッセージを発します。真の欲求は、長い間抑圧された恨みもあるし、頭に本気で考え直してもらう必要もある。だから、症状は派手なものでなければならないし、気づいてくれるまで何度も繰り返し起こさなければならないのです。
このように症状というものは、必ず大切なメッセージを含んでいるのです。ですから、本来は有難いものなのです。この症状がなかったとしたら、この人はこの先も不自然な自分らしくない状態で生きていることになる。そこを軌道修正させてくれる病気の症状というものは、プレゼントとして受け取る必要があります。実に嫌な「不幸」「苦しみ」というラッピング用紙に包まれているけれど、その中身は本人にとって、とても大切なメッセージが入っている。このプレゼントは、受け取りを拒んでも、症状の再発という形で必ず再配達されてくる。いつかは覚悟してきちんと受け取らなければ終わらないものなのです。
例えば、うつは、休んでいるしかないような状態が起こるので、「休息して、充電しなさい」「立ち止まって考えてみるように」というメッセージとも受け取れます。単純な充電で済む場合はうつにはならず、「疲れたので休みたい」「休んだら元気になった」となるはずですが、うつ症状が要請する充電はちょっと特殊です。特にうつが再発した際は、元の状態に戻っただけでは済まない、「このままでいいの?立ち止まって考えてみて」というメッセージをしっかり理解する必要があります。
パニック障害はどうでしょうか。この不安発作は、突然理由もなく訪れる「今にも死ぬんじゃないか」と感じるような不安の発作です。
ラテン語で、「メメント・モリ(=死を忘れるな)」という言葉があります。死ということを隣においてみた時に、初めて自分の今の生き方が問われます。だから、「良くい生きるために、死を忘れてはならない」ということを意味する言葉です。パニック発作でもたらされる「今にも死ぬんじゃないか」という感覚は、強制的にメメント・モリが訪れた状態とも受け取れます。日常生活の中で、「まあ、そのうちやるさ」「これは本当の姿じゃないけれど、とりあえずこうしておこう」とごまかしている。一番その人らしい中心、本当のその人がすっかり追いやれて大切にされていない状態ですごしていると、不安発作が訪れて、「自分のメメント・モリから遠い生き方になっていないかを改めて見つめては」というメッセージが届くかもしれません。
辛い症状に苦しまれている方は、早く以前のように戻りたいと思われるでしょう。しかし、元の姿・あり方は、ご自身にそのような症状を生み出す負荷のかかったものかもしれません。辛い「不幸」「苦しみ」というラッピング用紙に包まれているプレゼントを受け取り、その中にある大切なメッセージに向き合うことで、新たな自分の在り方を模索するきっかけが潜んでいるかもしれません。