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職場の人間関係トラブル解決法

 4月が近づき、職場を中心に人事異動や組織の再編などが多くなる時期と思います。学校でもクラス替えや席替えが行われます。異動で問題となるのは、仕事内容が変わることはもちろんですが人間関係の大きな変化です。苦手な上司や同僚・部下と席が近くなることで心身の調子を崩す方も多いかと思います。あるいは違う組織が合併して上司や同僚・部下が変わるなどもあると思います。今後緊急事態宣言が終了する公算が高く、出社が増えることで人と人が顔を合わせることも場合によっては状況を悪化させる場合があります。

 隣の人の声が大きい、ぶつぶつ独り言を言っている、人の悪口ばかり言っている、机をがたがた叩いてうるさい、体臭・ヤニ臭・口臭がひどいなどで苦しめられている方が多いです。

 フリーアドレスであったり席替えが容易にできればいいのですがそう簡単にいかないケースも多いです。

 当院のHPのセルフケアにも書きましたが、対人関係問題の解決の基本は当人と距離をとることです。苦手な人がいても距離をとれれば概ね問題はなくなることが多いです。ただし職場で隣の席になった場合や部署が同じになった場合、その距離が絶対的に縮まるのでいかんともし難いのですね。

 人間関係のトラブルの解決で「話し合い」というものがよく使われ、「なにか問題があれば話せばわかる」といったこともよく行われますが、話しても分かり合えない、通じ合えないことが多いのが現実であり、実際言いにくいことも多いです。また話し合うことで場合によって余計話がこじれることもあり注意が必要です。

 勤め人である限りどうにもならないのですが、できる対処方法としては以下のようなものがあります。もちろん会社を辞めてしまえば一番楽なのですが、経済的な問題からそれが困難な人がほとんどです。もちろん社内でちゃんとした話し合いができて解決できればそれに越したことはありません。ただしスメハラについては本人に伝えるまたは距離をとる以外に方法はないと思います。

  • 自身の体調管理をしっかりする

 睡眠を中心として自身の心身の調子を安定させることが重要です。他者の言動に対してイライラする、気になる場合に、往々にしてあるのが自身の心身の調子が悪いことが原因である。無理な生活をすることで脳が疲弊し、軽いうつ状態になることでちょっとしたことでイライラしてしまいます。お母さんが家事で疲れていて、イライラして子供に当たるケースなどが例としてあげられます。自身の体調がいい場合、細かい他者の言動は流せる場合が多いです。女性の場合は月経前の気分の不快を何とかコントロールすることも大事です。SSRIなどの薬が非常に有効なので試してみる価値はあると思います。ただし食事・運動・睡眠といった基本的な生活スタイルの確立が一番重要になります。

  • 薬を飲んで状況に慣れる

 抗不安薬を中心とした薬は有効です。薬を飲むことで今までムカついていたことでも、「あっそう」「そんなこともあるさ、ハハハ」と適当に流せるようになります。不思議なのですが、実際気にならなくなることが多いです。①と同じで脳の機能が安定化することで不安・イライラといった感情が減弱するのですね。否定的な認知を変えることで感情を制御しようという認知行動療法と似た効果が得られます。薬の場合は感情に直接影響します。感情が変わることで、「隣人が悪い」「どうにもならない」といった否定的な認知が、「隣人も大変なのだな」「まあなんとかなるさ」といった肯定的な認知に変わり、認知が変わることでさらに感情もより安定するといった流れも生まれます。

  • 心身の不調を訴えて産業医への面談を申し出る

 事業所単位で50人以上の職員がいた場合は通常産業医の先生がおられます。多くは非常勤の産業医の先生で月1回程度会社を訪問していると思います。産業医の業務に「職場環境の改善に努める」といったものがあります。ちゃんと産業医の役割を果たして頂けるのであれば面談が可能であり、面談にて「職場内の人間関係の問題で心身の不調をきたしている」と判断された場合、産業医は事業所の責任者に改善勧告をだすことができます。ただし産業医の多くは内科の先生がやっておりメンタルヘルスは詳しくはない場合があったり、産業医自身も事業所に雇われている人間なので強くは言えない場合があったりでうまくはいかないケースも多いです。

  • うつ状態になってしまったら心療内科通院して診断書をだしてもらう

 あくまで職場の人間関係が原因で脳が疲弊してうつ状態になった場合ですが、心療内科に通院して「職場環境調整が必要」といった診断書をもらい対応することも可能です。会社には職員の心身の健康に配慮する義務(安全配慮義務)が法律で定められており、基本的に何等かの診断書がでた場合は対処が必要になります。ただし診断書に職場環境調整の必要性が記載されていてもどう対処するか最終判断するのは会社です。診断書があったからといって必ずしも会社が必要十分な対応するとは限りません。またうつ状態になるまで我慢するも辛いですね・・・。

  • 隣人と自分のこころを観察して楽しむ

 やや高度なやり方ですが迷惑な隣人の特徴を客観的に分析する第3の目をつくることで感情的な反応をおさえることも可能です。隣人や自身のおかれた状況を、空間的な客観視も大事ですが、時間的にもより長期の視点でとらえることが大事です。また感情的に反応する自分のこころの動きを観察することも感情の安定に役立ちます。人は辛い状況に陥ったときに解離という状態に陥ることがありますが、意識的に自我の働きを弱めてそれに近い状態をつくりだすのです。今回は具体的な内容の記載は差し控えたいと思います。

  • 会社の上層部へ職場の構造についてアドバイスをする

 長時間一緒に過ごす、しかも狭い部屋で席を固定するという環境設定に無理があるのです。構造派による家族療法というのがあって、家族のいる部屋をチェンジする、仕切りをつくる、入れ替えるだけで家族間の関係性が改善するケースも多々あります。誰と誰がうまが合わないとかいう以前に部屋の構造や共有する時間の長さ、対面の席での視線の位置など自体に問題があると考えてもいいかもしれません。当クリニックもスタッフは10人以下と小規模なため人間関係のトラブルは比較的起こりやすい環境にありますが、勤務曜日・時間などシャッフルすることで共有時間をコントロールしており無用なトラブルを避けるように心掛けております。

 以上いくつか対処方法を述べさせて頂きました。4月は様々な変化があり適応することが大変かもしれませんが、上記のことを参考に頑張ってみて下さい。

心身の養生について

 現在通院中の方で症状が慢性化して寛解に至らない方、薬の反応が悪い方、再発を繰り返す方などがおり悩ましいことが増えております。

 また怒りのコントロールができない、イライラする、相手が許せないなども精神の問題として扱われがちですが、単純に生活の乱れが関係することも多いと考えられます。

 適応障害の休職中などに生活リズム表(診療案内の「不適応・ストレス」の項目にあり)やグラフ化体重日記などを最近つけて頂くことが多いのですが、睡眠リズムの乱れ、食生活の偏り、運動不足などが心身の不調の原因ではないかと思われる例が多数認められます。

 以下に患者さん自身でやって頂きたい心身の養生について、チェック項目を列挙致します。自身の生活を振り返ってチェックしてみて下さい。

心身の養生について

清潔な習慣

□ 睡眠部屋の掃除をすること(ハウスダストなどを除去)

□ 毎日お風呂に入ること

良質な睡眠

□ 入眠時間と起床時間を一定にすること(入眠薬を同じ時間に内服)

□ 昼寝・夕寝は厳禁(昼寝は15分以下なら可)

□ 入眠1時間前にはスマホを使用中止すること

□ 土日祝日でもリズムを変えないこと(まとめ寝は禁止)

バランスのよい食事

□ 絶対正しいという食事内容はないため、様々な食材を万遍なく食べること

□ 最低30回噛んで飲み込むこと(意外と難しい)

□ BMI>25 空腹になるまで食べない(時間で食べない)、空腹時間を長めにとり空腹に慣れること

□ BMI<18 空腹にならなくても時間で食べること

□ 入眠2時間前から水以外は口に入れないこと

□ 炭水化物でもお菓子類(砂糖)は控え目にすること

□ 腸活をすること(腸内細菌製剤・発酵食品・食物繊維・オリゴ糖)

適度な運動

□ ウォーキング1日5000歩(スマホで計測)

□ 適度なストレッチ:ヨガ(YoutubeのB-life)、ラジオ体操

嗜好品の制限

□ 禁煙

□ 節酒(多くても1日アルコール1単位以下×週4日以下)

□ カフェイン、エナジードリンクをとりすぎないこと

休職と復職について

 適応障害でも症状の重い方や職場環境の問題が大きい場合休職に至ることが多いです。ここでは休職から復職に至る過程について説明致します。

 ①精神症状や職場環境から休職が必要となった場合、多くの会社では「診断書」の作成が求められます。当院では必要時即日診断書(税込み3300円)を作成させて頂いております。ケースバイケースですが適応障害の場合は「1か月弱の自宅安静」の指示をすることが多いです。

 ②休職中は1~2週間に1回の通院になります。給与については有給休暇が残っている場合は有給の消化で、有給に残がない場合は病気休暇という形になることが多いです。病気休暇では、傷病手当が支給される場合が多いです(就職してからの期間など制限あるので注意)。

 傷病手当金の支給には下記のような診断書が必要になりますので、通院時に持参ください(作成費用は3割負担で300円程度です)。

 ③精神症状が十分に回復したと判断された場合、今度は復職へ向けての準備となります。多くの方は復職に至りますが、症状回復したにもかかわらず退職に至る方も多いです。職場環境の調整が困難な場合や人間関係が破綻している場合、復職リハビリなどの制度がそもそも職場にない場合などのケースで散見されます。復職に際して、休職状態からいきなり通常の出勤状態に戻ることは難しいと思います。一定期間の心身のリハビリが必要になります。当院では下記の内容のプリント及び生活リズム表(記録表)をお渡しして、復職可能かどうかの判断をしております。

 ④復職可能であれば、復職可能の診断書を作成致します。会社によって復職時は診断書が必要ない場合もありますので、人事課または上司に必要の有無をお尋ね下さい。

 ⑤復職後については月1~2回の通院になり、問題なく出勤できていれば終診となります。

            スムーズな復職のために

         <復職に向けてのチェックリスト>

 不安感や抑うつが回復し、意欲が少しずつでてくると、職場復帰を考え始めると思います。休職中の方の多くは、ほとんどの時間を自宅で過ごされるため、通勤していた時に比較して活動量が大きく低下しております。スムーズな復職のためには、休職中でも出勤を意識したリハビリが必要になります。

 まずはゆっくりと休養し、生活リズムを十分に整えて下さい。別にお渡しする「生活リズム表」の作成も併せて行ってください。

 具体的に取り組んでおきたい事項について下記のチェックリストに挙げていきます。これらの事項が無理なくできるか確認されてから、復職可能の診断をしたいと考えております。

 また復帰リハビリテーションという制度のある会社も多いので、職場の上司・人事課・産業医の方と相談し可能であればその制度も是非ご利用下さい。

【就業を意識した生活リズムを整える】

□通勤時間に合わせた時間帯に起床・就寝ができますか?

□日中、昼寝をせずに起きていられますか?

□ウォーキングなど適度な運動ができますか?(1日5000歩程度)

□身だしなみと整えて外出ができますか?

□日中、図書館などの公共の場で過ごすことができますか?

□通勤の練習は可能ですか?実際に会社に時間通り行けますか?

□業務に関連した内容の新聞記事、雑誌、書籍、Webサイトなど集中して読めますか?

【復職に当たっての心構え】

□職場復帰をしたい、仕事をしたいと自然に思えますか?

□休職に至った原因・背景について自分なりに分析はできていますか?自分なりの対処はできますか?

□再発予防について考えていますか?(物事のとらえ方を見直す、相談を早めにするなど)